第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

ポスター

ポスター3

支援工学理学療法1

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-1096] 脳卒中片麻痺患者に対する複合現実感の技術を用いた多感覚フィードバック型上肢リハビリテーショントレーニングシステムの実現可能性の検討

杉原俊一1, 田中敏明2, 宮坂智哉3, 工藤章1, 泉隆4, 中島康博5 (1.札幌秀友会病院リハビリテーション科, 2.東京大学先端科学技術研究センター人間情報工学分野, 3.北海道科学大学保健医療学部理学療法学科, 4.東海大学基盤工学部医療福祉工学科, 5.北海道立総合研究機構産業技術研究本部)

Keywords:脳卒中片麻痺, 上肢トレーニング, 複合現実感

【はじめに】
標準算定日数を超えた脳血管疾患等の外来リハビリテーション(以下リハ)については,介護保険によるリハへの移行が求められており,自宅における身体機能を維持・向上の自己訓練の指導も期待されている。しかし,そのような役割を担う受け皿は十分と言えず,在宅場面での上肢機能の維持・向上のためのリハシステムの構築が急務である。
そこで本研究では,在宅での身体機能の維持・向上を支援するため,立体視による画像呈示や振動子による感覚フィードバック呈示による複合現実感技術を用い,実空間に近い感覚でリハを行うことを目的としたリハトレーニングシステムの実現可能性について検討した。
【方法】
本システムはパーソナルコンピュータ(以下PC)とモーションセンサーデバイス(Kinect for Window),ディスプレイ,ウェブカメラ,振動呈示装置で構成され,ディスプレイには患者の上肢を模した物体を表示,測定した上肢の動きをリアルタイムに反映することができる。開発したリハプログラムでは,目標物にタッチすると手に装着した振動ユニットが振動し,タッチ感覚の呈示後には目標物は消え,次の目標物を表示し上肢を誘導する。本システムの管理や運動状態の監視は,インターネットを介してリアルタイムで行え,運動状態はPT側のPCにリアルタイムでストリーミングされ,姿勢データや上肢を模した物体の動きを監視できる。また,療法士が目標物の位置や振動ユニットの設定を即座に変更し,患者に新たなメニューを実施させることも可能である。加えて,ビデオ通話システムのSkypeを連動させることで患者の状態把握や音声を使った指示も可能となっている。
対象は,上肢に障害のない健常者5名と脳卒中片麻痺5名,男性3名,女性2名,平均年齢69,2±11,9歳,簡易上肢機能検査(STEF)80±5,4点とした。
対象者には手部に振動刺激装置を装着した後,体幹および上肢が画面内に投影されるように離れた椅子座位で各関節座標を測定した後,自身の上肢を模した画面内の物体で目標物をタッチするように指示し,目標物が全て消えるまで実施するよう求めた。課題は上肢長より算出し画面に呈示した3つの目標物をタッチする内容とし,上肢挙上・前方リーチ・左右リーチ動作を誘導する3種類の課題を各々3試行実施した。
分析方法は,課題毎の試行時間,3試行目の座標データよりPC画面に反映された各課題の手の運動軌跡,上肢挙上では最上方,前方リーチでは最前方,左右リーチではクロスリーチで目標物をタッチした際の関節角度を三角関数より算出し,各課題の試行時間,関節角度に関して,健常者と片麻痺患者の2群について比較検討した。さらに,片麻痺患者については試行時間と上肢機能の相関について検討し,統計分析を有意水準5%で実施した。
【結果】
試行平均時間については全ての課題において片麻痺患者で遅く(P<0,05),上肢挙上の課題で差が大きかった。また,前方リーチ課題を除き,STEFの値が低い程,試行時間が短い傾向を示し,左右リーチではSTEFと課題試行時間に正の相関を認めた(P<0,05)。運動軌跡については全課題で課題の開始時や終了時で軌跡に違いを認め,高さや奥行,左右の運動範囲で片麻痺患者が小さくなる傾向を示した。関節角度については,両群間で有意差を認めなかったが,片麻痺患者では肩関節の屈曲角度が小さく,肘関節では屈曲が大きくなっており,不十な分離運動を示していた。
【考察】
上肢運動課題を多感覚フィードバックとして提供し,運動軌跡や関節角度より片麻痺患者の上肢機能を反映できる可能性が示された。また,上肢機能の低い症例で実施時間が短いのは,体幹の代償を利用しながら課題を実施したと思われ,ビデオ通話システムによる動作分析の評価を行い,目標物の位置や振動ユニットの設定をすることが必要と考えられた。インターネットを介してリアルタイムに行うことで,より現実な生活空間での個別的なプログラムの提供が可能になると思われ,在宅で行う遠隔での上肢トレーニングの実現可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本システムのようなICT(情報通信技術)を有効に活用することにより,自宅においても個別性を重視した,適切,かつ,多様な運動を安全に提供することが可能であり,脳卒中患者にとどまらず,高齢者の生活目標に応じた自主トレーニングの促進に大きく寄与するものと考える。