第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

代謝 がん

2015年6月7日(日) 13:10 〜 14:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-1112] 2型糖尿病が膵癌術後患者の血糖コントロールに与える影響

中島勇樹1, 河江敏広1, 岩城大介1, 福原幸樹1, 筆保健一1, 伊藤義広1, 三上幸夫2, 木村浩彰2 (1.広島大学病院診療支援部リハビリテーション部門, 2.広島大学病院リハビリテーション科)

キーワード:膵臓癌, 2型糖尿病, 運動療法

【はじめに,目的】膵癌による死亡者数は経年的に増加傾向であり2012年にはおよそ年間3万人に増加した。膵臓はインスリンを産生する唯一の実質臓器であり,糖尿病の病態に深く関与する。膵癌に対する治療手段の一つとして手術療法があり,膵実質量の減少による膵内分泌機能の低下によって術後更なる血糖コントロールが悪化する事が予測される。しかしながら2型糖尿病が膵癌術後患者の血糖コントロールに与える影響については明らかでない。2型糖尿病においては運動療法が血糖コントロール悪化を抑止する治療手段の一つであるが2型糖尿病を合併した膵癌術後患者に対する運動療法の適否は不明である。そこで本研究の目的は,2型糖尿病を合併した膵癌術後患者の血糖コントロールを明らかにし,運動療法の必要性を検討する事である。
【方法】2009年1月から2010年1月までに当院消化器外科において膵癌の診断にて膵切除術を受けた症例を対象とした。糖尿病の診断の有無,対象症例の手術術式,HbA1cの推移をカルテより調査した。調査したHbA1cは術前,術後1ヶ月,1年,2年,3年,4年,5年とした。2012年4月以前のHbA1cについては,JDS値からNGSP値に換算した。

【結果】対象症例は28例であった。このうち,術前より糖尿病の診断のある患者を糖尿病あり群とし,糖尿病あり群は13例(追跡可能症例数・1年後:13例,2年後:9例,3年後:9例,4年後:8例,5年後:6例),糖尿病なし群は15例(15例,10例,8例,7例,7例)であった。糖尿病あり群の術式は膵頭十二指腸切除11例,膵体尾部切除2例,糖尿病なし群の術式は膵頭十二指腸切除10例,膵体尾部切除5例であった。HbA1c(%)の推移は,糖尿病あり群において糖尿病なし群と比較し術前から術後5年後まで高値を推移する結果となった(糖尿病あり群・術前:6.9±1.5,術後1ヶ月後:6.2±0.9,1年後:6.1±0.6,2年後:6.8±1.3,3年後:6.7±1.1,4年後:6.6±0.8,5年後:6.8±0.7。糖尿病なし群・5.9±0.5,5.8±0.4,5.7±0.6,6.4±1.3,5.8±0.3,5.9±0.4,5.8±0.4)。

【考察】膵癌術後患者を対象として2型糖尿病が長期間の血糖コントロールに与える影響について調査した。その結果,糖尿病あり群においては糖尿病なし群と比較し術前から術後まで高値を推移する結果となった。HbA1cは過去一ヶ月の血糖コントロールを表す指標であり,糖尿病学会においては血糖正常化を目指す際には6.0%未満にコントロールすることが推奨されている。本研究においては糖尿病あり群は全期間を通じて6.0%以上であり血糖を正常化させるための介入が必要な状態であった。また,糖尿病あり群で,術前と比較し術後1ヶ月,1年では,HbA1cは低下傾向であったが,術後2年目以降では,HbA1cの平均値は6.5以上で推移し,血糖コントロールの悪化を認めた。これは,2型糖尿病患者においては術前に厳格な血糖コントロールが行われることや,入院中は適切な食事量で管理されることから術後1ヶ月はHbA1cが低値を示したと推察された。また2年後からのHbA1c上昇については,血糖コントロールを悪化させる要因としてインスリン抵抗性の増加や生活習慣の悪化などが考慮される。本研究においてはHbA1cが2年以降において増加した理由については明確にならなかったが,外来での診察回数などは経年的に減少していくことから医学的な関わりの減少が血糖コントロール悪化に関与したと推察された。糖尿病の治療においては血糖コントロールの正常化を図るため運動療法が治療手段の一つとして用いられるが,2型糖尿病を合併した膵癌術後症例に対する運動指針は明らかでない。本研究における糖尿病あり群においては血糖コントロール改善を目的とした運動療法の適応と考えられるが,日本膵臓学会によると膵癌術後患者の3年生存率は20.1%,5年生存率は14.5%となっており生命予後が悪いことが知られている。そのため,2型糖尿病を合併した膵癌術後患者に対しては,血糖コントロール目的とした運動療法も含めて生命予後を考慮した理学療法介入が重要となると考えられる。

【理学療法学研究としての意義】糖尿病を合併した膵癌術後症例に対する理学療法介入についての指針は明らかでない。本研究において糖尿病を合併した膵癌術後症例の血糖コントロールは悪化する傾向であることが明らかとなり,血糖コントロールを正常化するための運動療法が適応となる可能性が示された。しかしながら膵癌は生命予後が不良な疾患であるため血糖コントロールを改善するための運動療法の適否については今後糖尿病理学療法学の観点からも重要な課題となることが推察された。