第50回日本理学療法学術大会

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分科学会 シンポジウム

日本地域理学療法学会 分科学会 シンポジウム10

超高齢社会下での社会システムにおいて理学療法士に求められるものは何か―医療現場から在宅や地域での活動を通して今何を考え実践すべきか―

Sat. Jun 6, 2015 5:30 PM - 7:20 PM 第2会場 (ホールC)

座長:隆島研吾(神奈川県立保健福祉大学 理学療法学専攻)

[S-10-2] 地域包括ケアの原理的理解のために

猪飼周平 (一橋大学大学院社会学研究科)

本報告では,限られた時間の範囲内ではあるが,地域包括ケアシステムを考える上での原則について整理して述べたい。
地域包括ケアについては,様々な立場から様々な解釈が行われているが,とりあえずより地域的でより包括的なケアシステム・・・・・・・・・・・・・・・・・・と大雑把に理解しておくだけでも,ヘルスケアシステムの世紀的な大転換の産物であることは容易に理解されるだろう。というのも,過去およそ1世紀の間,ヘルスケアは施設ケアおよび医療と他のケアとの分離を前提とするシステムを指向してきたからである。地域包括ケアシステムの構築は,明らかに過去の指向を反転させることを目指している。とするならば,地域包括ケアにとってもっとも重要なことは,なによりなぜそのような歴史的な反転をしてまで新しいケアシステムに取り組まなければならないのかということの説明であろう。
本報告では,日本を含む先進諸国のケアに関する価値観が,社会福祉領域においては1970年代から,ヘルスケア領域においては1990年代から「生活モデル」とよばれるタイプのケアを好ましいものとして受け止める方向へと変化してきていることが,ケアシステムの転換を説明することを議論したい。
ところで,日本においてケアにおける「生活モデル」の重要性をもっとも早く認識し,その普及に尽力してきた領域は,他ならぬリハビリテーション領域であったといえる。というのも,リハビリテーション医学の泰斗上田敏が,1970年代から志してきた「全人格の回復としてのリハビリテーション」こそ,「生活モデル」の内容に他ならないからである。その意味では,本学会にとってもっとも重要なことは,目先の政策へのリアクションよりも,自らの存立基盤とは何かということを再確認することであるといえるかもしれない。シンポジウムにおいては,報告者の報告を触媒として論議が深まることを期待したい。