第50回日本理学療法学術大会

講演情報

大会シンポジウム

大会シンポジウム4

これからの理学療法研究―世界への発信―

2015年6月6日(土) 10:15 〜 12:05 第2会場 (ホールC)

座長:黒木裕士(京都大学大学院 医学研究科人間健康科学系専攻理学療法学講座)

[TS-06-3] 基礎的理学療法研究から臨床応用への展開

山口智史1,2 (1.慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室, 2.東京湾岸リハビリテーション病院)

近年,基礎研究から得られた成果を臨床応用するための研究(Translational Research)の重要性が高まっている。本シンポジウムでは,我々が行ってきた研究を紹介するとともに,理学療法研究における基礎研究から臨床応用への展開について討議したい。
理学療法において,中枢神経損傷患者の歩行機能向上は重要なテーマである。この中枢神経損傷後の歩行機能向上に対して,基礎研究の知見である『脊髄可塑性』の重要性が示唆されている。
我々は,歩行機能向上に関わる脊髄可塑性を促す手法として,ペダリング運動や経頭蓋直流電気刺激(tDCS)と電気刺激療法の併用を用いている。この併用治療による,歩行機能への効果とその治療メカニズムについて,運動機能改善の観点と神経生理学的手法を用いた研究を遂行してきた。その成果として,上位中枢から脊髄神経機構に対する入力が低下している不全脊髄損傷患者において,電気刺激による感覚入力と同時に,運動皮質の興奮性を高めるペダリング運動やanodal tDCSを適用することで,脊髄神経機構におけるシナプス可塑性を強く誘導し,下肢運動機能を改善することを明らかにした(Yamaguchi, et al., 2013, 2015)。
さらに,これらの基礎研究の知見から,全国7施設の臨床および研究で活躍する理学療法士と共同で,多施設RCT研究を遂行した。その結果,回復期脳卒中患者において,通常の理学療法とともに,ペダリング運動と電気刺激の併用を1日15分3週間実施することで,各単独の介入と比較し,10 m歩行速度および6分間歩行距離が向上することを明らかにした。
これらの成果は,基礎研究と臨床研究が融合して得られたものである。理学療法研究のテーマは,常に『臨床の問い』にあり,基礎研究の知見を臨床応用し,患者の利益へ結び付けていくことが重要である。そのためには,臨床家と研究者が協力し,基礎研究の知見を応用することで,その効果を検証し,実践していくことが必要であると考える。