第50回日本理学療法学術大会

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大会シンポジウム

大会シンポジウム10

専門職の倫理―プロフェッショナリズム その期待と責務―

Sun. Jun 7, 2015 11:50 AM - 1:40 PM 第3会場 (ホールB7(1))

座長:永冨史子(川崎医科大学附属川崎病院 リハビリテーションセンター)

[TS-17-1] 専門職の倫理―プロフェッショナリズム その期待と責務―

奈良勲 (金城大学医療健康学部)

三大プロフェッション(professions)と呼ばれる専門職種(聖職者,医師,弁護士)は,中世期のヨーロッパで始まり,近年その職種は拡大して,その中に理学療法士も含まれる。Professionalismのprofessとは,「専門職に与えられた権限,自由裁量権をクライアント,患者などの対象者の利益を優先することを誓う」との意味である。
Professionalismの原則は,諸家によって多少の見解の相違はあるが,①高度な教育水準,②法的・社会的承認,③利他主義(倫理要綱),④公共へのサービスなどが満たされる前提条件がある。しかし,リースマンは,「何のための豊かさ」の中で,機械文明による大量生産で利潤のみを追求して「衣食住」を満たすだけでは,心の豊かさは得られず,大衆社会の人間の外部志向型,つまり,他者の言動に常に興味を抱き,感受性を高めて協調的社会的性格と行動を提唱している。近代社会においては全般的に経済的豊かさが優先され,人間性の豊かさと尊厳が希薄になってきている感は拭えない。その現象は,現在の医学・医療専門職の教育や臨床現場での業務内容にも現れていると思える。
倫理(ethics)と道徳(moral)は類似した概念であるが,一般的には前者は人間の善悪について多角的に思索され,その帰結として導かれた結論が規範であるとされている。「専門職として己の生活の糧を得る手段の責務を通じて対象者の利益を優先するとの期待に応える」ことは,二律背反的行為とも言えることから至難の技である。よって,専門職は,高い職能・技能と倫理観を持った人たちであるというのは,実のところ単なる見せ掛けであり,単に専門職としての地位や身分を保障された階級であるとの見解もある。確かに,三大プロフェッションの創生期と現代社会の価値観とでは大きな相違があることは事実である。従って,現代社会の専門職としての基盤は,その時代その時代の先端の価値観の中で,どれほど,「professionalismとしての誓」を果たしてゆくかの自覚と覚悟に委ねられていると言えよう。