第50回日本理学療法学術大会

講演情報

大会シンポジウム

大会シンポジウム12

理学療法の未来 クロージングシンポジウム―これからの理学療法の可能性への挑戦―

2015年6月7日(日) 15:20 〜 16:40 第2会場 (ホールC)

座長:長澤弘(神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部リハビリテーション学科), 山田千鶴子(専門学校社会医学技術学院 理学療法学科)

[TS-19-5] 思い込みによるバランス戦略へのアプローチ

冨田昌夫1,2 (1.藤田保健衛生大学医療科学部リハビリテーション学科, 2.佛教大学保健医療技術学部)

“怖い,怖いと言って固くなり動作ができない患者”,“筋力がつき,中殿筋歩行をしなくなったのに,運動療法室を出るとまた元の歩行に戻ってしまう患者”は少なくない。なぜそうなるのか因果関係がつかみにくく対応に難渋するが,そこに潜む最大の問題はバランスであると私は考えている。
バランスに対するアプローチはPTにとって関心が高く,これまでも多くの治療時間を割いできた。にもかかわらず,先のような問題が解決できないのは基本動作の捉え方とバランスの治療法に問題があったのではないかと考えている。結論から言うと,PTにはバランスの戦略と戦術という概念が乏しく“バランスの戦術に対してはアプローチできたが戦略を変えるアプローチまでは踏み込めなかった”ということである。
基本動作のバランス戦略選定には患者のやる気や不安という運動学的要因とは違う情動的な要素が含まれる。不安があれば無自覚のうちに“安定して動かない”戦略が選択される。その戦略のもとでも意識すれば様々な戦術を使用できる。しかし,意識することで戦略は変えられない。動作を行う中で患者がやる気を出し,動いても危険でないことに気づいて“危険,できない”という思い込みをぬぐい去ることができたときにのみ積極的に動く戦略に変えられる。治療という行為を通して患者の情動まで変えるコミュニケーションや接し方が極めて重要になってくる。
恐れ,不安という患者の情動や思い込みを無視して治療は成り立たない。ところがエビデンスに基づいた治療を進めたいPTは論理的,知的になりすぎて患者の情動を無視してしまうことが少なくない。患者の思い込み,セラピストの思い込みを克服し,両者が共感できる接し方,治療法を工夫できたとき,“これからの理学療法の可能性”は更に大きなものになると考える。挑戦してみたい。技術指導に関し,院内での臨床教育の手段としてオスキーの試用体験も交えて言及してみたい。