[S1-02] 放牧型畜産への利活用:IT技術を活用した高度放牧管理システム
IoT技術による放牧牛管理システム:山や広大な中山間地域を用いて,ウシを放牧するとなるとそれなりの管理が必要となる.繁殖牛を想定すると,発情確認や人工授精,健康看視,分娩管理等,それなりの管理がある.筆者らは,まず省力的にウシを放牧地で捕獲できるように動物の行動特性を活用して,スマートフォンでの管理システムを構築した.これは,いわゆる“餌付け”の行動特性を利用している.現地にウエブカメラ,遠隔操作のスタンチョン,サウンドシステム,自動給餌機のユニットを構築した.すなわち現地にいなくても,スマートフォンからウシを特定の音声でウエブカメラの前に呼び出し,捕獲して,スマートフォンから観察し飼料を給餌することができる.解放後はしばらくスタンチョンの周りに滞在するので,発情行動もウエブカメラで観察できる.これにより,発情確認,人工授精やウシの治療,給餌等が可能となる.
放牧牛の測位と未来の技術としてのインプラントバイタルセンサー:広大な放牧地では,牛群の動きを把握するのが難しくなる.中山間地域で山間部も含めた放牧となると,あるいは離島等における地ぼうの複雑な土地での放牧となれば,牛群の把握や事故等により帰らない個体がある場合の対処が難しくなる.通常,測位と言えばGPSが採用される.将来的な衛星の活用は視野に入れているが,GPSを放牧牛の測位に使用するには現在のところコストとバッテリ―の耐久性の問題がある.そこで電波発信機をウシに装着してその受信機アンカー局を設置することで,電界強度3辺測位法による測位システムを構築している.
また,未来の技術としてインプラント型のバイタルセンサーも開発されている.演者は特に体温センサーシステムを構築してきた.現在ワイヤレス型で,放牧牛の体内のセンサーから体温をPC上にモニタ―できるようになった.今後,健康状態,発情や分娩行動との関係を検討して行く予定である.将来は,スマートフォンで放牧牛の測位や健康管理が可能となるだろう.IoTの技術は日々進歩し,仕組みは刻一刻と変化する.今後,技術ではなく目的ベースでIoTメーカーとの協力が不可欠である.
略歴:九州大学大学院農学研究院(家畜生産生態学),准教授を経て,2017年5月より鹿児島大学学術研究院教授.2017年5月より九州大学客員教授.博士(農学,九州大学).専門は,家畜生体構学を基盤に,牧場勤務の経緯から食肉科学,家畜栄養生理学,家畜管理学,家畜行動学およびICT畜産等,幅広く牛肉生産について研究している.