[S1-05] MIJ-カメラを活用した牛肉質自動解析システムの開発
肉牛の育種改良を効率的に行うためには,牛枝肉の高精度な品質評価が非常に重要である. 現在の枝肉格付は,日本食肉格付協会の格付員が枝肉横断面の目視検査に基づいて行っているが,肉牛の育種改良の従事者からは,より客観的な肉質評価手法が求められている.われわれは,複数の種類の枝肉横断面撮影装置を開発し,市販してきたが,装置が大型であり,また,リアルタイムの解析に対応していないという問題があった.平成27~29年度のJRA畜産振興事業等により,狭い切開面に対応した新しい牛枝肉撮影装置を開発し,撮影と同時の自動解析を実現したので,その概要ならびに利用の可能性を紹介する.
【材料および方法】
新型撮影装置(MIJ-15)は,先端に取り付けたアルミニウム製の治具が枝肉横断面に安定的に密着することで,枝肉横断面に対して15度の角度から撮影を行えるように設計された.また,撮影面の手前と奥の双方にピントが合うように撮像素子の角度を調整した.MIJ-15を用いた枝肉撮影の流れは,まず,バーコードリーダーを用いて枝肉ラベルのバーコードをスキャンし,カメラ内蔵のシングルボードコンピュータ(SBC)が個体識別番号を画像のファイル名として結びつける.撮影すると同時に台形補正と輝度ムラ補正が行われ,枝肉冷蔵庫内に通信環境が存在すれば,撮影された画像はWi-Fi経由でクラウドサーバーに転送される.通信環境が存在しない場合は,USBメモリに保存された画像を,通信環境の整った場所でクラウドサーバーに転送することで,自動解析が実行される.
自動解析では,ロース芯の自動抽出が実施される.ロース芯の自動抽出は人工知能(AI)の一種である深層学習(Deep Learning)を利用し,実現している.深層学習のためには,大量の学習データが必要となるが,これらにはわれわれが蓄積してきたロース芯画像を利用した.
【結果および考察】
MIJ-15での撮影は枝肉の切開幅が5 cmあれば可能であり,従来のミラー型の切開幅20 cm以上と比較すると,大幅に改善された.撮影される画像の質も良好であり,十分に肉質を評価できるものであった.クラウドサーバーに画像が転送された後,10秒程度でロース芯抽出ならびに画像解析値が算出された.ロース芯抽出精度は,当初,ロース芯面積の誤差が±5%以上となるものもあったが,MIJ-15で撮影された画像も追加し,学習を続けた結果,現在では,実用上問題の無いレベルへと精度が向上した.
ミラー型撮影装置を用いた撮影には,撮影者1名のほかに補助者が必要であったが,MIJ-15は1名で操作でき,その重量は約3 kgである.また1時間に200 ~ 300頭の撮影および画像解析が可能である.近い将来において,産業レベルでの実用化が十分期待できるのではないかと思われる.
略歴:1992年 東北大学大学院農学研究科,博士後期課程修了,学位取得 博士(農学)
1992年 仙台市衛生研究所理化学課 技師
1995年 帯広畜産大学 助手
2007年 帯広畜産大学 教授
2014年 一般社団法人ミート・イメージ ジャパン設立(副理事長)
2018年 株式会社MIJ labo 取締役(最高開発責任者),現在に至る