[S4-03] カラスの農作物被害とその対応策
カラスは多様な鳴き声を発し,発達した音声コミュニケーションを行っています.演者らは,それらを生かし,鳴き声を使ってカラスの行動をコントロールする方法を考案してきました.その中で,カラスが危機的状況の際に発する鳴き声をカラスの動きに合わせて再生することで,慣れにくく,長期的に追い払いが可能であることを見出してきました.本講演では,それを利用した弊社製品のCrowControllerなどを紹介いたします.
また,カラスは発達した色覚を持っています.色覚に関わる光受容タンパク質は,ヒトが3種類であるのに対し,カラスは4種類あります.さらにカラスは紫外線を認識することもできます.故に,カラスが見えている色の世界はヒトとは大きく違うと考えられます.本講演では,この優れた色覚を利用した黄色いごみ袋や弊社が開発中のカラス撃退ロボを紹介します.
さて,多くの対策がカラスの生物としての特徴を無視したものであるため効果がない,と前述しました.ですが,それらも使い方次第では有効な対策にもなり得ます.実は,目新しい物を置いただけでカラスが来なくなることはよくあります.それは,カラスの警戒心が非常に強いため,環境が普段と少し異なる状況であると,その場を避ける傾向にあるためです.演者は,その効果を「カカシ効果」と呼んでおります.しかし,「カカシ効果」は何日も続きません.同じ物を置き続けると,それを目印にあの場所は危険のない場所であると,カラスに学習させてしまうことにもなり,かえって逆効果になってしまいます.学習させないよう,手を替え,品を替え,「カカシ効果」をうまく利用すれば,短期的な対策は可能です.
しかしながら,上記は全て対処療法です.根本解決には個体数制御が必要です.演者らは,「野生動物への無自覚な餌付けストップキャンペーン」を提唱しております.これは,餌の少ない冬場において,餌資源と成り得る物を徹底的に管理しましょう,というキャンペーンです.例えば,畑の隅に放置された規格外の農作物などは,本来であれば餌の少ない冬場に餓死していたかもしれない個体を生き長らえさせる格好の餌となります.これら餌資源の管理により自然淘汰圧を上げ,個体数を制御する根本的なカラス対策についてもお話しします.
演者らは,これら対策の他,有害鳥獣として捕獲されたカラスの有効利用として,カラスを食資源として利用することの可能性を探っております.カラス肉の安全性や栄養成分,受容性,市場性などを調べております.本講演にてそれらも紹介します.
略歴:群馬県出身.2008年に東京農工大学大学院連合農学研究科修了,博士(農学)取得.宇都宮大学オプティクス教育研究センター特任研究員,総合研究大学院大学学融合推進センター助教を経て,株式会社CrowLabを設立.代表取締役を務める傍ら,宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センターの特任助教を務める.