The 126th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

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ランチョンセミナー

日本畜産学会若手企画委員会主催 ランチョンセミナー

Wed. Sep 18, 2019 11:45 AM - 12:45 PM 第II会場 (7番講義室)

11:45 AM - 12:15 PM

[LS1-01] 骨格筋肥大と筋幹細胞

*深田 宗一朗1 (1. 大阪大)

 骨格筋を構成する主たる細胞は「筋線維」と呼ばれる,哺乳動物の成体中で最大の(多核)細胞である.筋線維は最終分化した細胞であり,それ自身が新しい細胞を作る能力は少なくとも哺乳動物にはない.しかし,骨格筋には筋線維が傷ついて死んだ場合に,新しい筋線維を生み出す能力「再生能力」が備わっている.その中心として働くのが,筋サテライト細胞と呼ばれる筋幹細胞であり,筋再生に必須の細胞であることが広く認知されている.筋サテライト細胞は通常,細胞周期G0期の所謂,静止期で,筋線維上で維持されているが,筋線維が傷害を受けると速やかに活性化・増殖して新しい筋線維を生み出すことができる細胞である.
 骨格筋にはもう一つ,「可塑性」と呼ばれる環境・状況に適応して,筋線維サイズを変化させる能力が備わっている.筋線維サイズが減少する場合が「筋萎縮」,筋線維サイズが増加する場合が「筋肥大」と呼ばれている.筋肥大は筋肉トレーニングやドーピング薬投与により見られる,よく知られた生体反応である.肥大時には筋線維の細胞質領域が増加するため,細胞質と核のバランスを一定に保つために,筋線維の核自身も増える.これは,myonuclear domain theoryを支持する現象である.この新しい核を供給するのも筋サテライト細胞であり,筋サテライト細胞依存的な核の供給が十分に見られないと筋肥大効率は低下する.逆により核を多く持つ筋線維の方が,肥大しやすいとも言われている.これは,muscle memoryという概念で有り,一度肥大した筋線維は元のサイズに戻っても,トレーニングにより筋肥大が早く起こる現象を説明する説として注目を集めている.このmyonuclear domain theoryとmuscle memoryの二つの説は,「人工的に筋線維の核を増やすことができれば,人でも家畜でも筋量を増やすことにつながる」可能性を示している.
 我々は,これまで筋サテライト細胞の静止期を積極的に維持する分子の一つとしてカルシトニン受容体を同定し,その機能解析を行ってきた【1, 2】.その研究の過程で,運動による筋肥大時の筋サテライト細胞とカルシトニン受容体の機能について興味をもち,現在研究を進めている.本発表では筋サテライト細胞を上手く利用する事で,「人工的に筋肉量を増やす夢」のために,我々は何を知っていて,何を知るべきかについて我々の成果を交えながら皆様と一緒に議論させて頂きたい.

1. Yamaguchi et al. Cell Rep. 13:302-14. 2015
2. Baghdadi et al. Nature. 557:714-718. 2018