12:15 PM - 12:45 PM
[LS1-02] 骨格筋萎縮 -タンパク質分解酵素カルパインの観点から-
私たちは家畜・家禽の骨格筋を食肉として利用している.骨格筋が食肉へと変化する過程において,タンパク質分解酵素であるカルパインが筋原線維性タンパク質を分解し,食肉の熟成に伴う軟化の中心的な役割を果たすことはよく知られている.しかし,生きた骨格筋細胞の中でカルパインがどのような役割を果たしているのかはあまり知られていない.カルパインは細胞質内に存在し,Ca2+により活性を制御されるタンパク質分解酵素である.カルパインは消化酵素など他の酵素とは異なり,基質を限定的に切断し,その基質の構造を変換することで,切断した基質に新たな機能を付加する役割を果たす.すなわち,シグナル伝達のスイッチとしての機能を持つ.ヒトにおいて15種類のカルパインが存在し,骨格筋には組織特異的に発現するカルパイン3が存在する.カルパイン3の遺伝子変異によりカルパイン3の酵素活性が喪失すると,骨格筋線維の萎縮・変性が発症する.この事実はカルパイン3のタンパク質分解酵素のとしての作用高進が過剰なタンパク質分解を促進し,筋を萎縮・変性へと導くのではなく,カルパイン3の基質切断不全が原因で何らかのシグナル伝達経路に不調をもたらした結果,骨格筋が萎縮・変性を起こすことを示している.また,カルパイン3は自分自身を切断する自己分解能が極めて高いこと,Ca2+だけではなくNa+により活性化するなど他のカルパインでは見られないユニークな特徴を持つ.本セミナーではこれまでのカルパイン3の研究に基づき,カルパイン3の酵素活性不全により,骨格筋運動刺激に対するシグナル伝達に不具合が生じ,骨格筋が変性・萎縮するメカニズムを紹介したい.