日本畜産学会第126回大会

講演情報

共催シンポジウム "畜産研究の成果を獣医臨床フィールドへ"

牛の繁殖:研究と臨床のトピック

2019年9月19日(木) 13:00 〜 15:00 第I会場 (ぽらんホール(8番講義室))

座長:大蔵 聡(名古屋大学大学院生命農学研究科)、髙橋 透(岩手大学)

13:30 〜 14:00

[SY-I-02] ウシ経膣採卵(OPU)における現場利用と今後の展開

*及川 俊徳1 (1. 宮城畜試)

 近年,超音波診断装置を用い経膣的にウシ生体から卵子を吸引採取する経膣採卵(Ovum pick up,OPU)技術の研究が多くの機関で行われ受精卵を作出している.最近は機器の小型化や性能の向上により畜産現場でも実施されるようになってきており注目されている技術である.OPUの利点として発情周期に関係なく同一のウシから1~2週間の比較的短期間の間隔で繰り返し卵子の採取が可能なことである.ウシOPUがここまで進展した背景には未成熟卵子を体外で培養する技術が確立されたことが大きい.しかし,採取した未成熟卵子から移植可能な受精卵が作出されるまでには体外成熟培養・体外受精・体外培養の一連の工程が必須であり培養条件等を遵守する必要がある.生体から受精卵を得る方法としては,外因性の性腺刺激ホルモン製剤による過剰排卵処理(superovulation,SOV)を行い人工授精後7日目に胚を回収・移植する方法(multiple ovulation and embryo transfer,MOET)が実施されてきたが,OPUはMOETに代わる胚生産技術として期待されていることからOPUの現状と課題について紹介し,現場応用の検討について紹介する.
 OPUに用いるドナー牛の条件としては,正常な卵巣であればあらゆる雌牛が対象となる.主には,過剰排卵処理が実施できる牛であり,SOVのようなホルモン処理に反応しなくなったドナー牛や若い育成牛および妊娠牛からも卵子を採取することが可能である.しかし,若い育成牛の場合卵巣が小さく保持しづらいこと,経膣プローブが大きくある程度まで発育を待つ必要がある.妊娠牛では妊娠中期以降は卵巣が保持できなくなるため実施時期は限られる.
 採取される卵子数については,個体または発情周期により卵巣内卵胞の数は変化することが知られており,OPU実施時に卵巣内に卵胞が多数存在すればより多くの未成熟卵子の採取が可能となる.また,採取卵子の体外受精(IVF)後の胚発生率も用いるドナー牛により異なることが知られており,我々の試験成績では2.7%~50.0%と牛個体により大きく異なる結果が得られている.従って多くの卵子を採取することおよび移植可能胚を多数得るためには用いるドナー牛の選択は重要である.
 OPUを実施するためにはOPUの技術を習得する必要があり,現在,独立行政法人家畜改良センターがOPUの技術研修を実施していることから受入体制が整っており活用すべきである.各都道府県の畜産系試験研究機関もOPUの研究を実施していることから技術を有している.OPUの普及を妨げている要因の一つには,安定的に移植可能胚を得るまでにはある程度経験が必要なことである.正常な体外受精胚を安定的に作出するためには作業工程が多く細かな作業を必要とする.それを補うため各都道府県公設の畜産系研究機関を利用する場合も想定される.現場で獣医師がOPUを実施し,採取した卵子を研究機関に輸送することで体外受精により胚を作出する.作出した体外受精胚は再び生産現場の獣医師に戻して受胚牛に移植するシステムの構築を現在思案中である.そうすることで胚生産の効率化が図られウシを増頭することが可能となる.現在,牛の生産頭数が減少していることから効率よく子牛を生産するためには受精卵移植技術が不可欠である.
 最後に,超音波診断装置は持ち運び可能な機器も販売されていることから今後さらにフィールドでも実施される場面が多くなると予想され,現場で活躍する獣医師へさらに普及することを期待したい.

略歴:
1994年 3月 北里大学獣医畜産学部獣医学科卒業
1994年 4月 宮城県庁に入庁(宮城県畜産試験場)
2002年 4月 宮城県仙台家畜保健衛生所
2008年 4月 宮城県東部家畜保健衛生所
2010年 4月 宮城県畜産試験場
    ~  現在に至る