15:45 〜 16:15
[SY-II-02] 尿石症の多発要因と予防、治療法の開発
【はじめに】
演者らは毎年数例~10数頭の尿石症による尿閉あるいは膀胱破裂牛を治療している.尿石症の原因究明は古くて新しい課題であり,また治療法の開発も重要である.このため,研究1では尿石症が多発した農場の発症要因と対策を,研究2では,尿石が形成されやすい飼育条件について検討した.研究3では,膀胱破裂牛に対する治療法として,内視鏡を用いた治療法を開発し,検証した.
【研究1】
尿石症による尿閉・膀胱破裂が2ヶ月間で15頭発生したA農場と尿石症の発生が低いB,C農場について給与飼料,血液生化学的所見,尿中無機物濃度を比較した.試験は黒毛和種肥育去勢牛を用い,10-14ヵ月齢,15-19ヵ月齢,20-24ヵ月齢,25ヵ月齢以上の群に分け,同一の牛を3ヵ月ごとに採血と採尿した.Ca,Mg,iPの尿中排泄率は以下の数式で求めた.FEa(%)=(Ua×Pcr)/(Pa×Ucr)×100 Ua:物質aの尿中濃度,Pa:物質aの血中濃度,Ucr:尿中クレアチニン濃度,Pcr:血中クレアチニン濃度.
尿石症多発のA農場群(変更前群)では,BおよびC群と比較して飼料中Ca含量が高く,日本飼養標準要求量の1.5倍,Ca/Pは1.3で,B,C群のCa給与量はほぼ要求量であり,Ca/Pは0.6-0.7であった.変更前群では,B,C群に比べて血清Ca濃度と尿pHが高値(平均pH8.0~8.3)を示し,またMgの尿中排泄率が有意に高値を示し,Caの尿中排泄率も高い傾向がみられた.A農場の尿結石の成分分析から,主成分はリン酸マグネシウムアンモニウム(ストラバイト)で約80%,ケイ酸Ca,ケイ酸Mgも約20%程度含まれていた.ストラバイトはアルカリ尿で形成が促進される.本事例は,要求量以上のCa給与により尿pHが上昇し,尿石症多発の要因になったのではないかと考えられた.
その後,A農場では飼料中のCa含量を減少させ,さらに陰イオン製剤を加え,尿pHを下げることに重点を置いた飼料体系に変更した.この結果,尿pHは下がり,尿石症発生はなく,膀胱内結石保有率は48%から21%まで大きく減少した.しかし枝肉成績は悪化し,上物率は75%から37%に大きく減少した.飼料変更後では陰イオン製剤の影響で餌の摂取量が伸びず,枝肉成績が低下したと考えられた.現在は陰イオン製剤を投与せず,Ca/Pを0.8にした配合飼料を給与し,肉質も回復,尿石症発生もほとんどなくなっている.
【研究2】
研究2では,膀胱結石保有率が高かったA農場(A群;23%)と低かったB農場(B群;8%)において,飼料,血液および尿成分を比較した.その結果,A群の1日のCaとMg給与量はB群と比較し多く,P給与量はA群で少なかった.A群はB群と比較し,尿中Ca排泄率と尿中Mg排泄率が高値を示し,尿中P排泄率と尿中P濃度が低値であった.尿pHと尿中P濃度は有意な負の相関がみられた(P<0.001).A群は2月においてB群と比較し尿pHが有意な高値であった.また,尿比重は冬季に高く,飲水温は4℃まで低下した.Na,Cl給与量,尿中Na,Cl濃度はB群で高かった.尿中MgとCa排泄率の増加,冬季の飲水量減少は尿結石の形成リスクを高め,いっぽうNa,Clの給与はリスクを低下させると考えられた.
【研究3】
膀胱破裂牛に対して,腹腔穿刺により腹水(腹尿)を除去(50L~100L)し尿道造瘻術を行なった.尿道切開部よりテフロンチューブで覆った内径5mmの内視鏡を挿入し,尿道背側憩室前にある内尿道口から膀胱に進入,膀胱内の観察と排尿した.膀胱粘膜は糜爛し,フィブリンで覆われていた.チューブを膀胱内に残し持続的に排尿させることで破裂した膀胱壁は自然閉鎖し,尿毒症も次第に回復,多くの症例が治癒した.
演者らは毎年数例~10数頭の尿石症による尿閉あるいは膀胱破裂牛を治療している.尿石症の原因究明は古くて新しい課題であり,また治療法の開発も重要である.このため,研究1では尿石症が多発した農場の発症要因と対策を,研究2では,尿石が形成されやすい飼育条件について検討した.研究3では,膀胱破裂牛に対する治療法として,内視鏡を用いた治療法を開発し,検証した.
【研究1】
尿石症による尿閉・膀胱破裂が2ヶ月間で15頭発生したA農場と尿石症の発生が低いB,C農場について給与飼料,血液生化学的所見,尿中無機物濃度を比較した.試験は黒毛和種肥育去勢牛を用い,10-14ヵ月齢,15-19ヵ月齢,20-24ヵ月齢,25ヵ月齢以上の群に分け,同一の牛を3ヵ月ごとに採血と採尿した.Ca,Mg,iPの尿中排泄率は以下の数式で求めた.FEa(%)=(Ua×Pcr)/(Pa×Ucr)×100 Ua:物質aの尿中濃度,Pa:物質aの血中濃度,Ucr:尿中クレアチニン濃度,Pcr:血中クレアチニン濃度.
尿石症多発のA農場群(変更前群)では,BおよびC群と比較して飼料中Ca含量が高く,日本飼養標準要求量の1.5倍,Ca/Pは1.3で,B,C群のCa給与量はほぼ要求量であり,Ca/Pは0.6-0.7であった.変更前群では,B,C群に比べて血清Ca濃度と尿pHが高値(平均pH8.0~8.3)を示し,またMgの尿中排泄率が有意に高値を示し,Caの尿中排泄率も高い傾向がみられた.A農場の尿結石の成分分析から,主成分はリン酸マグネシウムアンモニウム(ストラバイト)で約80%,ケイ酸Ca,ケイ酸Mgも約20%程度含まれていた.ストラバイトはアルカリ尿で形成が促進される.本事例は,要求量以上のCa給与により尿pHが上昇し,尿石症多発の要因になったのではないかと考えられた.
その後,A農場では飼料中のCa含量を減少させ,さらに陰イオン製剤を加え,尿pHを下げることに重点を置いた飼料体系に変更した.この結果,尿pHは下がり,尿石症発生はなく,膀胱内結石保有率は48%から21%まで大きく減少した.しかし枝肉成績は悪化し,上物率は75%から37%に大きく減少した.飼料変更後では陰イオン製剤の影響で餌の摂取量が伸びず,枝肉成績が低下したと考えられた.現在は陰イオン製剤を投与せず,Ca/Pを0.8にした配合飼料を給与し,肉質も回復,尿石症発生もほとんどなくなっている.
【研究2】
研究2では,膀胱結石保有率が高かったA農場(A群;23%)と低かったB農場(B群;8%)において,飼料,血液および尿成分を比較した.その結果,A群の1日のCaとMg給与量はB群と比較し多く,P給与量はA群で少なかった.A群はB群と比較し,尿中Ca排泄率と尿中Mg排泄率が高値を示し,尿中P排泄率と尿中P濃度が低値であった.尿pHと尿中P濃度は有意な負の相関がみられた(P<0.001).A群は2月においてB群と比較し尿pHが有意な高値であった.また,尿比重は冬季に高く,飲水温は4℃まで低下した.Na,Cl給与量,尿中Na,Cl濃度はB群で高かった.尿中MgとCa排泄率の増加,冬季の飲水量減少は尿結石の形成リスクを高め,いっぽうNa,Clの給与はリスクを低下させると考えられた.
【研究3】
膀胱破裂牛に対して,腹腔穿刺により腹水(腹尿)を除去(50L~100L)し尿道造瘻術を行なった.尿道切開部よりテフロンチューブで覆った内径5mmの内視鏡を挿入し,尿道背側憩室前にある内尿道口から膀胱に進入,膀胱内の観察と排尿した.膀胱粘膜は糜爛し,フィブリンで覆われていた.チューブを膀胱内に残し持続的に排尿させることで破裂した膀胱壁は自然閉鎖し,尿毒症も次第に回復,多くの症例が治癒した.