The 129th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Presentation information

推戴式・授賞式・学会賞受賞者講演

推戴式・授賞式・学会賞受賞者講演

Tue. Sep 14, 2021 1:00 PM - 2:20 PM 授賞式 (オンライン)

Chairperson:Masahiro Satoh

[AW-04] 兵庫県黒毛和種集団における肉質関連遺伝子の同定

*Shinji Sasazaki1 (1. Kobe University)

これまで世界中の家畜種において, その経済形質を支配する遺伝子の解析が進められている. 我国固有の肉用種である黒毛和種においても2000年頃から盛んにDNAの解析が行われるようになり, 次々と経済形質に影響する遺伝子多型が報告されるようになった. 我々の研究室においても, 脂肪酸組成に関連するものとしてSCD, SREBP1, FASN, LEP, UTS2R, STARD3遺伝子, 枝肉重量に関わるPLAG1遺伝子, 皮下脂肪厚やロース芯面積に関するものとしてDGAT1遺伝子などを報告してきた. しかしながらこれらのマーカーの効果は集団ごとに異なる可能性が考えれられるため, 各集団における確認が必要である. 我々はまず, SCD, SREBP1, FASN遺伝子に対し, 兵庫県黒毛和種539頭を用いてその遺伝子頻度および産肉形質に対する効果について調査した. 遺伝子型判定の結果, マイナーアリル頻度はSCDで0.04, SREBP1で0.322, FASNで0.09であった. 他集団を用いた過去の報告では, 優良アリル頻度はSCD で0.594, FASN で0.670であり, 兵庫県集団では著しく優良アリル頻度が高く, 但馬牛に対するこれまでの選抜の影響が示唆された. 一方SREBP1ではその選抜の影響が少ないことが伺えたが, 過去の報告と本研究の結果とは優良アリルが逆転していた. 以上のように, 兵庫県集団がその他の集団とは異なった特異的な遺伝構造を示すことが示唆された. そこで兵庫県に特有の新規QTL探索を行うため, 兵庫県黒毛和種集団1836頭を用いてDNA-pooling法に基づくゲノムワイド関連解析(GWAS)を行った. 対象形質はロース脂肪割合(ロース芯における脂肪の占める面積割合)および脂肪酸組成(特にオレイン酸含有率)とした. 1. ロース脂肪割合 GWAS解析の結果, BTA7において有意な関連を示すSNPを検出した. 次にこの領域に存在する原因遺伝子を探索するため, GWASにおける有意SNP周辺(10-30Mb)を候補領域とし, Pooling GWASに用いた200個体から8個体(上下各4個体)を対象に全ゲノムリシーケンスを行い, 対象領域に存在する有力な候補多型の網羅的検出を行った. ゲノムリシーケンスの結果, 候補領域内に127,090個の多型が検出された. そのうち31,945個が遺伝子内多型であった. さらに我々は, GWAS解析の結果最も有意性の高かったSNP (ARS-BFGL-NGS-35463)とのLDを考慮し, 6,044個の多型に絞り込んだ. また, それら多型が位置する179遺伝子について遺伝子の機能を調査し, 最終的に8遺伝子170多型に着目した. 本研究では, それらのうち唯一のアミノ酸置換であったSLC27A6遺伝子のK81M多型について, 黒毛和種集団(n=904)を用いて効果の検証を行った. 結果, SLC27A6 K81M(p = 0.0009)はARS-BFGL-NGS-35463(p = 0.0049)よりも低いP値を示し, 有力な候補多型の一つであることが示唆された. 2. オレイン酸含有率 GWAS解析の結果, 第9番染色体および第14番染色体に有力な候補領域を同定した. 同定されたQTL領域はこれまでにどの集団でも報告がされておらず, 兵庫県に特有の新規遺伝子であることが示唆された. ロース脂肪割合と同様に, 候補多型を探索するためオレイン酸含有率の高い個体および低い個体の8個体に対して全ゲノムリシーケンス解析を実施し, 多型の網羅的検出を行った. 候補領域内に合計で39,658多型を検出した. さらに上位下位グループ間のアリルの違いに基づいて, 24遺伝子に位置する1,993多型に候補を絞り込んだ. 続いてそれらの中から遺伝子機能および多型の影響を考慮し, CYB5R4 c.*349G>T, MED23 c.3700G>A(V1234I), VNN1 c.197C>T(T66M)の3遺伝子多型を解析対象として選出した. 黒毛和種集団(n = 899)においてそれらのC18:1に対する効果を検証した結果, いずれの多型もC18:1と有意な効果を示し(p < 0.05)QTLの原因となりうると考えられた. 以上, 兵庫県集団を対象として, ゲノムワイド関連解析やゲノムリシーケンス解析を駆使しゲノム全体に渡り網羅的に有力なゲノム領域, 候補遺伝子および候補遺伝子多型をリストアップすることができた. 今後さらなる研究を進めていくことにより, 対象形質に対する責任遺伝子や変異の同定および兵庫県集団の改良に向けてのDNAマーカーの開発が可能になると期待される.