The 130th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

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シンポジウム

未来をになうAnimal Scienceの発展と展開

Sat. Sep 17, 2022 1:30 PM - 6:00 PM Zoom会場1 (オンライン)

Chairperson: Kei Hanzawa(Faculty of Agriculture, Tokyo University of Agriculture)

1:50 PM - 2:10 PM

[CPS-02] 世界で主要な家畜、ヤギ

*Yoshiaki Hayashi1 (1. Meijo University)

【世界における飼養】  世界でのヤギの飼養頭数は急増しており、2020年までの20年間で1.49倍の増加と、同期間でのウシの1.16倍、ブタの1.06倍を凌ぐ。この増加は、乳、肉、毛、皮、堆肥等を目的とした増頭によると推測され、特に開発途上国での生産が貧困削減や農業開発に貢献することも特筆される。ヤギ飼養の他目的として、環境保全の役割も注目される。一例として欧州の乾燥地域では山火事予防の防火帯での除草にヤギが用いられる。また、ヤギの放牧による生物多様性の維持や、適切な飼養管理での気候変動緩和にも貢献する。そのため、2030年までの国際目標「持続可能な開発目標(SDGs)」にも貢献し得る家畜である。さらに、贈答物としての扱い、宗教的祝賀や儀式での利用例もある。したがって、ヤギは世界中で飼養され、人間生活や地球環境の質向上に資する家畜である。 【日本における飼養】 日本でのヤギ飼養は他の家畜に比べて独特で、経済や環境の状況に影響されてきた。1950年代には生産物の自家消費や水田周辺地の除草のために飼養され、1957年に約67万頭(日本復帰前の沖縄を除く)の飼養頭数を記録した。しかし、経済発展に伴い、生産物の需要や収益性の低下により飼養頭数は減り、2010年には約1万4千頭となった。その後、ヤギ飼養の機運が高まり、2020年には飼養頭数が約3万1千頭とされている。飼養頭数の増加は生産物への関心の高まりのみならず、耕作放棄地等での除草、小中学校での情操教育、アニマルセラピーを含む伴侶動物としての利用によると考えられる。乳はヨーグルト、チーズ等にも加工され、ペット用乳としても取り扱われる。肉は南西諸島で伝統的に消費されてきたが、近年は全国各地に肉を提供する飲食店が増え、国産ヤギ肉の需要も増加している。 【全国山羊ネットワーク】 ヤギや生産物に興味のある人々の集まりで、ヤギに関して情報交換し、我が国でのヤギ振興を目的とする全国山羊ネットワークが1999年より活動している。全国山羊サミット開催、会報発行、日本山羊研究会開催と研究会誌発行、ヤギに関する地域団体支援、オンラインでの情報発信、家畜改良センター茨城牧場長野支場や畜産技術協会との連携、ヤギの研究/生産に資する世界的ネットワークInternational Goat Association (IGA)への加盟での国外機関との情報交換を行う。これまでに、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)」での「殺菌山羊乳」の成分規格改正の厚生労働省への提案、国内のヤギ飼養での課題収集と解決への取り組み、ヤギの飼料計算プログラムの試作等も実施してきた。ヤギを産業動物と限定せず、実験動物、伴侶動物としても位置付け、多様な利用価値があると考え、農業技術、研究、教育等、多方面からヤギを捉え、人類とヤギの関わりを深めている。 【ヤギの乳肉】 全国山羊ネットワークと日本緬羊協会(現 畜産技術協会)との共同提案により、2014年12月に乳等省令での殺菌山羊乳の成分規格が、無脂固形分7.5%以上、乳脂肪分2.5%以上に改正され、国内での飲用乳としての生産/販売の環境が改善された。他方、農林水産省により2020年に設定された家畜改良増殖目標では、ヤギ生産物の需要拡大に応えるため、安定した生産体制作りと、泌乳能力や乳成分、産肉能力の向上に努めることが示された。ヤギ乳は牛乳に比べて乳中の脂肪球が小さく、胃内で形成される凝乳が軟らかいため乳タンパク質が消化されやすく、アミノ酸が吸収されやすいとされる。また、乳タンパク質の主成分であるカゼイン中、αS1-カゼインが牛乳より少なく、乳アレルギーを引き起こさない例がある。さらに、乳中の遊離アミノ酸であるタウリン含量が牛乳より高いとされる。他方、ヤギ肉は低脂肪、高タンパク質で、脂肪は他の反芻家畜より不飽和脂肪酸が多く、リノール酸に富む。また、ヤギ肉の摂取により血圧は上昇しないことも報告されている。飼料の種類や摂取量がヤギ生産に影響を及ぼすことは周知されており、放牧または舎飼い等、異なる飼養形態でのヤギの乳肉生産に関する研究が実施されている。引き続き、研究成果の収集/整理を行い、関連学会での成果発表と、国内でのヤギ生産の向上を図りたい。一方、国内でのヤギのと畜先が限定されることが喫緊の課題であり、一層の課題解決への取り組みが必要である。

【略歴】 1994年 広島大学生物生産学部 卒業. 1996年 広島大学大学院生物圏科学研究科 博士課程前期修了. 1996年~2003年 国際協力機構(JICA)青年海外協力隊員,酪農ヘルパー,JICA専門家等. 2006年 広島大学大学院国際協力研究科 博士課程後期修了. その後,帯広畜産大学畜産学部研究員,名城大学農学部助教,准教授. 全国山羊ネットワーク事務局, IGA日本代表を担当.