The 130th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Presentation information

シンポジウム

未来をになうAnimal Scienceの発展と展開

Sat. Sep 17, 2022 1:30 PM - 6:00 PM Zoom会場1 (オンライン)

Chairperson: Kei Hanzawa(Faculty of Agriculture, Tokyo University of Agriculture)

3:40 PM - 4:00 PM

[CPS-07] 生命をつなぐ生殖細胞
〜受精卵ができるまで〜

*Yayoi Obata1 (1. Tokyo University of Agriculture)

卵子、精子、あるいはその発生運命をコミットされた細胞は生殖細胞と総称され、生命を次世代へとつなげる役目を担う。生殖細胞がその機能を果たすためには、減数分裂を完了して正常な半数体ゲノムを次世代に継承すること、そしてゲノミックインプリンティングなどを完了して正常なエピゲノムを次世代に継承することが求められる。
 これまでに、家畜や絶滅に瀕した動物の繁殖あるいはヒト不妊治療を目的として様々な生殖補助技術(Assisted reproductive technology; ART)が開発されてきた。中でも精子を活用するART、人工授精、体外受精あるいは顕微授精は畜産分野や医療分野で実用化され、驚くべきことに試験的にはフリーズドライ保存された精子からも顕微授精でマウス産仔が誕生している。こうした事実は、精子はゲノムとエピゲノムさえ正常であれば、顕微授精で十分に生殖細胞としての機能を果たせることを示している。一方、卵子の機能はゲノムとエピゲノムが正常であっても既存のARTで克服できない課題が多い。その理由のひとつは、卵子は受精卵に母性因子を継承する必要があるからである。母性因子とはmRNA、タンパク質および細胞小器官であり、卵子は卵母細胞成長過程で母性因子を産生し細胞質内に蓄積していく。母性因子の獲得は機能的な卵子の産生に重要であるが、これらは多岐に渡っており未だに全容は明らかになっていない。さらに、卵子の数的な制限は現状のARTにより克服できない。ホルモン処置などにより排卵を誘起することは可能であるが、卵巣から排卵される卵子数は精巣内の精子数とは比較にならないほど限定的である。哺乳類では卵巣内に卵子の幹細胞が存在するか否か議論されて久しいが、少なくとも生理的条件下で卵巣内の卵子は枯渇することから、それを補完できる幹細胞は存在しない。つまり、生殖に利用できる卵子数は非常に限定的である。
 卵子形成過程を再構築する体外培養系は、機能的な卵子が産生される過程や機構を解明する研究ツールとして、また、卵巣内に潜在する未成長の卵母細胞を成熟卵子として活用するツールとして役立てることが期待できる。哺乳類の卵子形成は胎仔期から始まるが、私たちは世界に先駆けて、マウス胎仔の卵巣から成熟卵子を産生する、つまりマウス卵子形成の全過程を再構築する培養系を開発してきた。残念ながら、現在の体外培養系では、卵子形成および卵胞形成のいずれも体内に匹敵するレベルにはまだ到達していない。例えば、この体外培養系で産生された卵子は体外受精、胚移植をへてマウスを誕生させることができるが、その率は低い。ARTとして活用するには更なる検討が必要である。しかしその一方で、体外培養で産生された卵子は体内で産生された卵子とどう違うのかを詳細に解析していくと、卵子形成や卵胞形成に関する新たな分子機構が見えてくる。
 本シンポジウムでは、私たちが開発したマウス卵子形成を再構築する培養系を紹介させていただくとともに、卵子形成機構に影響しうる要因について言及する。

【略歴】
1999年3月 東京農業大学大学院農学研究科畜産学専攻博士後期課程修了 博士(畜産学)
1999年4月 群馬大学遺伝子実験施設(現 生体調節研究所附属生体情報ゲノムリソースセンター)助手
2003年4月 東京農業大学応用生物科学部バイオサイエンス学科 講師
2010年10月 同 准教授
2016年4月 同 教授(改組により2017年4月より現職)