The 131st Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

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授賞式・受賞者講演

授賞式・受賞者講演

Tue. Sep 19, 2023 3:00 PM - 4:00 PM Venue 1 (Auditorium)

[AW-02] 家畜精子の生理機能および利用に関する研究の推進と後進の育成

*Koh-ichi Hamano1 (1. Shinshu University)

1985年3月東北大学大学院農学研究科博士後期課程を修了し、農学博士の学位を取得した。1985年4月一般社団法人家畜改良事業団勤務を経て、1998年4月信州大学農学部助教授となり、2002年4月 同教授となった。2020年3月定年退職し、同年4月特任教授となり、現在に至っている。 (A)研究業績 (1)精子の発生と分化および未成熟動物における精子形成 未成熟雄動物の生殖細胞をアルギネート被包処理後,セルトリ細胞と体外培養することにより発生,分化すること,セルトリ細胞との体外培養後,日齢特異的に生殖幹細胞の割合とCD9, c-kit遺伝子の発現に違いのあること,エストロジェンが精子形成過程において,エストロジェンレセプターβを介した精子細胞の変態に関与する可能性,および精細管における生殖細胞の増殖,分化とFSHレセプター遺伝子との相互作用の可能性を示唆した.また,精巣上体体部精子の精巣上体上皮細胞との共培養により,生存性と運動性を維持し,成熟する可能性を示唆した. (2)精子の運動性と超活性化運動 同個体から夏季と冬季に採取したウシ精子の頭部と尾部の運動性に有意な差がないこと,粘性培地内での精子の超活性化運動,直線速度,尾部振幅の運動機構が受精機能に関与する可能性,および精子のシグナル伝達機構を調べPKAとPKCが運動性と受精能に関与する可能性を示唆した. (3)精子の走化性 卵胞液への移動能から,精子の走化性を確認した.精子運動解析装置を利用した走化性発現精子の 解析から,走化性における頭部の曲線速度の上昇と尾部の屈曲の増大を明らかにし,走化性の検査による受胎性評価の可能性を示唆した. (4)精子の走温性 マウス精子の走温性を確認し,TRPV4の関与の可能性を示唆した.また,温度勾配におけるTRPV4ノックアウトマウスの精子の移動能を調べ,走温性の阻害を確認した.ウシ精子における走温性の発現,低温域の精子が鞭毛角度を増大し,軌跡速度を低下しながら高温域に移動すること,精子内カルシウムイオンレベルが増大することを明らかにした.また,温度勾配を認識した精子へのカルシウムの流入が尾部の屈曲,打頻度を高めることで高温域に方向変換後,直線性が低下し,頭部の軌跡速度が上昇し,高温域に移動する可能性を示唆した. (5)精子の受精能獲得 カニューレ経由した子宮内および摘出子宮内インキュベーション,卵管上皮細胞との共培養による精子の受精能獲得の誘起を確認し,卵管液,あるいは卵管組織片培養上清の共存による精子の受精能獲得の可能性を示唆した. (6)精子の先体反応 トリプルステインによりヤギとウシの精子の先体反応を確認し,精子による受胎性評価の可能性を示唆した.ウシ精子におけるプロジェステロン誘導型の先体反応では,プロテアソームおよび卵丘細胞から分泌されるプロジェステロンが関与することを明らかにした. (7)X,Y精子の判別 ハムスター卵子侵入ウシ精子の染色体分析,PCRあるいはFISHによるY特異的DNA塩基配列の検査およびフローサイトメーターにより、X,Y精子を判別できることを確認した. (8)X,Y精子の分別による雌雄産み分け フローサイトメーターの改良により,ウシX,Y精子の分別を可能にした.分別したX,Y精子頭部の顕微授精と胚移植により子牛の雌雄産み分けを可能にした.これらの成果は牛の人工授精,後代検定事業に利用され,効率的なウシの改良・増産により畜産業に貢献した. (B)後進者の指導育成 信州大学在任中,学部では動物生殖機能学,持続的生物生産学の講義や動物生産実習を,大学院では動物生殖学特論を担当し,卒業論文学生46人,修士論文学生20人,博士論文学生21人の学位取得を指導した.卒業生の多くは,畜産関係および農業,食品関係の民間企業,公務員等で活躍し,我が国の畜産業の発展に寄与している. (C)学会活動への貢献 日本畜産学会の評議員,理事,畜産学会賞・奨励賞受賞候補者選考委員,将来検討委員,日本畜産学会第123回大会長などを務めた.また,北信越畜産学会の評議員,北信越畜産学会第66回大会長,日本繁殖生物学会の評議員,日本哺乳動物卵子学会の幹事,日本哺乳動物卵子学会第49回大会事務局長を務めた.