第94回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表(ODP)

2 微生物の生態

[ODP2A] a. 生態・共生・環境微生物

[ODP-016] 皮膚常在細菌が形成する複合バイオフィルムの時空間的解析

○釣流 香織1,野村 暢彦2,3,Andrew Shinichi Utada2,3,尾花 望3,4 (1筑波大院・生命環境,2筑波大・生命環境系,3筑波大・MiCS,4筑波大・医・TMRC)

ヒトの皮膚上に棲息する皮膚細菌は,皮膚表面上に付着しバイオフィルム様の生活様式を示すと考えられる。しかし物質表面上での生活環や挙動に関する知見は乏しい。また皮膚上での皮膚細菌間相互作用は,宿主であるヒトとの宿主-細菌間相互作用に深く関与すると考えられる。本研究では皮膚常在細菌である表皮ブドウ球菌およびアクネ菌を用いて,皮膚細菌間相互作用が複合バイオフィルムの三次元構造に与える影響の解明を目的とした。バイオフィルム量の定量及び顕微鏡観察の結果より,単独培養では表皮ブドウ球菌は細胞外DNA(eDNA)産生を伴うバイオフィルムの形成を形成する一方で,アクネ菌は殆どバイオフィルムを形成しなかった。両細菌を共培養すると,単独培養時と比べてバイオフィルム量が有意に増加した。顕微鏡観察により複合バイオフィルム中で両細菌が観察されたことから,両細菌は共存して協調的に複合バイオフィルムを形成することが明らかとなった。また,共培養時には複合バイオフィルム中に表皮ブドウ球菌由来のeDNA量が増加していた。そこで,複合バイオフィルムをDNase I処理して観察したところ,その形成量が減少するとともに,バイオフィルム底面部におけるアクネ菌の割合が減少した。以上より,共培養時には表皮ブドウ球菌由来由来のeDNA産生が増強されることで,強固なバイオフィルムが形成され,さらにeDNAは複合バイオフィルム中のアクネ菌の定着にも寄与することが示唆された。以上の結果から両細菌間の相互作用が,強固な複合バイオフィルム形成に関与していることが示された。両細菌種は皮膚上においても協調して存在しながらニッチを獲得し生存している可能性が考えられる。