第94回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表(ODP)

4 微生物の分子論

[ODP4A] a. ゲノム・プラスミド・遺伝子水平伝播・可動性遺伝因子・進化

[ODP-048/WS6-3] Helicobacter cinaediH. cinaedi complexのなかのヒト特異的系統である

○後藤 恭宏1,谷口 喬子2,中村 佳司1,三澤 尚明2,林 哲也1 (1九州大院・医・細菌学,2宮崎大・農獣医)

Helicobacter cinaediは腸肝ヘリコバクターの一つであり,菌血症や蜂窩織炎等の原因となる。本菌感染症はヒト腸管に存在するH. cinaediによって発症するものと推測されているが,ヒト腸管での常在性や疾患との関連を明確に示すデータは報告されていない。人獣共通感染症の可能性も示唆されていたが,イヌから分離された菌株は,ヒト由来標準株と性状が異なるとして,H. canicolaとすることが提案されている。しかし,H. canicolaを含めた近縁菌株の集団の中で,H. cinaediがどのような系統に属し,どのような特性を有するのかは不明である。本研究では,H. cinaediとその近縁菌株(H. cinaedi complex)のゲノム解析を行い,その遺伝的多様性の実態,その中でのヒト由来株(臨床株)の系統遺伝学な位置を解析した。その結果,ヒト特異的系統(狭義のH. cinaedi)の存在を明確にするとともに,この系統に特異的に存在する遺伝子群を同定した。さらに,健常人の糞便メタゲノムデータの検索を行った結果,狭義のH. cinaedi系統に特異的なゲノム配列が複数のサンプルから検出され,特異的ゲノム配列が検出されたサンプルでは,臨床由来の狭義H. cinaedi系統と高い相同性を示す配列が全ゲノム領域にわたって検出された。これらの結果は,狭義のH. cinaediH. cinaedi complexのなかのヒトに適応した系統であること,またH. cinaedi感染症とヒト腸管に常在する菌株との関連を強く示唆する。