第94回日本細菌学会総会

講演情報

ワークショップ

[WS1] ワクチン開発を進めるきっかけとなった細菌学・免疫学研究

2021年3月23日(火) 13:00 〜 15:00 チャンネル3

コンビーナー:木村 聡一郎(東邦大学),中尾 龍馬(国立感染症研究所)

[WS1-2] 組換えBCGを用いた,難病に対する多価ワクチンの開発

○松本 壮吉 (新潟大・院・医・細菌)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,2020年に入ってパンデミックを起こし,9月29日には死者100万人を突破して,12月現在,終息の兆しを認めていない。早急な対策が求められる中,世界に拡散したCOVID-19のモニターにより,死亡リスクを下げる要因が疫学的に明らかとなっている。その一つが,結核ワクチンBCGの接種である。BCGがCOVID-19に直接に有効であるかの結論は,進行中の試験結果を待たねばならないが,BCGの結核以外の致死性疾患に対する効果は,これまで少なからず報告されてきた。BCGの初回接種は,新生児~乳児期に行われるが,アフリカやヨーロッパにおいて,BCG接種は,小児の,結核以外の疾患による死亡率を有意に低下させている。2020年には,無作為試験の結果,高齢者における疾病の発生率を下げることも報告された。結核菌の弱毒株であるBCGに対する免疫応答は,結核菌に対するそれと酷似する。20億に及ぶ無症候結核は,結核の発生母体であるから「害」と捉えられてきた。しかし結核菌に対する免疫応答が,他の致死性疾患に対する防御を誘導するとすれば,古来より人類に根付いた結核菌が,人の生き残りに関わってきた可能性も考えられる。このような,人が知らず知らずのうちに恩恵に与かってきた機構を,BCGを組換えることによって,COVID-19などの難病対策に利用できる。BCGは,接種後,長期に渡って人体に生存し,抗原を産生して免疫を賦活し続ける特徴もある。難病の防御抗原を産生する組換えBCGは,宿主に有益な防御免疫をベースに,長く,強力に効く,多価ワクチンとなることが期待される。