第95回日本細菌学会総会

講演情報

シンポジウム

[S11] シンポジウム11
細菌毒素研究の新たな展開を目指して

2022年3月31日(木) 16:00 〜 18:30 チャンネル3

コンビーナー:田端 厚之(徳島大学),小林 秀丈(広島国際大学)

[S11-3] ウェルシュ菌およびディフィシル菌由来の二成分毒素:クライオ電子顕微鏡による複合体構造とその膜透過機構

津下 英明1,2,3 (1京都産業大・生命科学部,2タンパク質動態研究所・京都産業大学,3感染症分子研究センター・京都産業大学)

ウェルシュ菌の二成分毒素(イオタ)は,宿主細胞内でアクチンのADPリボシル化を行う酵素ユニットIaと酵素成分を細胞内に輸送する透過装置Ibからなる.Ibは膜上で機能的な膜孔を形成し,エンドソームの酸性条件下でこの膜孔を介したIa の細胞内への透過が起こると考えられている.しかし,タンパク質膜透過装置の詳細な構造と酵素成分の輸送機構は不明であった.我々はクライオ電子顕微鏡を用いて,イオタ毒素のIb膜透過装置(7量体)の構造とIaが結合したIb膜透過装置複合体の構造を明らかにし,報告した(2.8A分解能).Iaは,N末端のドメインで7量体のIb膜孔に結合し,これにより,IaのN末端のαヘリックスが一部解ける.さらにIa のN末端の先は,Ib膜孔の狭窄部位(直径6A)であるφクランプへと続いていた.これはIaが膜孔を透過する直前の構造を捉えたと考えている. ディフィシル菌(Clostridioides difficile)は一部の健常者の腸内に定着するグラム陽性偏性嫌気性細菌である.ディフィシル抗生物質耐性菌は,偽膜性大腸炎を起こすことが知られており,米国CDCが発表している抗生物質耐性菌の緊急の対応が必要な抗生物質耐性菌リストに挙げられている.ディフィシル菌のリボタイプ027/BI/NAP1型や078/BK/NAP型では主要な2つの毒素TcdA とTcdBの他に第3の毒素である二成分毒素CDTが存在し,その強毒性への関与が議論されている.我々はCDT複合体の構造と機能解析を進めており,イオタとCDT,2つの二成分毒素のタンパク質膜透過装置の構造とタンパク質透過機構について報告をする.