第95回日本細菌学会総会

講演情報

ワークショップ

[W4] ワークショップ4
腸内でビフィズス菌優勢な菌叢が形成・維持される機構の解明とその意義

2022年3月30日(水) 16:00 〜 18:00 チャンネル2

コンビーナー:松木 隆広(ヤクルト中央研究所),大澤 朗(神戸大学)

共催:ビフィズス菌研究会

[W4-3] 乳幼児期の有機酸構成の動的変化とビフィズス菌との関連

矢矧 加奈,佃 直紀,松木 隆広 (ヤクルト中央研究所)

乳幼児期の腸内細菌が産生する有機酸は,感染症への抵抗性や成長後のアレルギー発症リスクに影響を与えることが最近の研究によって明らかとなっている.健康な乳児12名から生後2年間に提供された1,048サンプルの便中の有機酸濃度の時系列変化を調べたところ,乳幼児の有機酸組成は成人の組成(酢酸:プロピオン酸:酪酸=3:1:1)とは異なり,乳酸およびギ酸濃度が高い状態が一定期間維持されていることがわかった.また,乳幼児期に特異的に観察される乳酸やギ酸濃度の上昇は特定のビフィズス菌の増加時期と一致していた.我々はこれまで着目されてこなかったビフィズス菌とギ酸の関連性をin vitroで調べ,ビフィズス菌の一部の菌種のみがギ酸産生に関わっていること,ヒト母乳中に含まれるミルクオリゴ糖(HMO)由来のフコースがギ酸の基質であることを見出した.さらにRNA-seqによる網羅的遺伝子発現解析を行ったところ,フコースからギ酸に至る代謝経路を同定することができた.本講演では,乳幼児期にビフィズス菌優勢な菌叢が維持される機構や,乳幼児の腸内で観察される菌種間・菌属間相互作用についても議論したい.乳幼児期の腸内有機酸プロファイルの時系列変化の一般性を理解し,それに影響を与える菌や代謝経路,環境因子を同定することは,乳幼児期の腸内細菌叢および有機酸を標的とした疾病予防法やプロバイオティクス・プレバオイティクス開発のための重要な一歩である.