[JPD1-6] JSSCG2020;注目領域Pick Up! 神経集中治療
今回のJSEPSIS 2020Gでは世界に先駆けて神経集中治療が取り上げられた。神経集中治療は、傷害脳における二次性脳障害の発生防止を目的として、脳循環代謝機能の維持のために他の重要臓器との連携を重視し、神経学的転帰を改善することを目標とする。 敗血症は神経集中治療の対象疾患で、従来より代謝性脳障害の1つである「敗血症性脳症」として認識されてきた。最近の大きな変化は、敗血症が感染に起因する臓器傷害と定義されたSEPSIS-3であり、意識レベルの低下がSOFAスコアにおいて脳障害を反映する指標となった。また、一般病棟で使用されるquick SOFAにおいても意識レベル(認知機能)の低下は陽性所見の一つである。一方、敗血症患者で日々の鎮痛鎮静の投与中止の合間に行う鎮静深度の評価において、昏睡状態の継続あるいはせん妄の発生は、脳障害の発生を示唆する重要な所見である。 敗血症における脳障害は、古典的には、感染による全身性炎症反応の結果として生じたびまん性脳機能障害である(Iacobone 2009 S331)。病態としてはミトコンドリア機能不全、酸化ストレス、血管内皮細胞の活性化と血液脳関門の破綻、脳血流の減少、などが挙げられる。発生頻度は報告により差があるが、ICUに入室した敗血症患者の17.7 %にみられたとの報告がある(Chang 2012 828)。主症状はせん妄であり重篤例では昏睡となる。せん妄は診断ツール(CAM-ICU)を用いて評価される。脳CTでは異常は少ないが、脳MRIのFLAIR画像では大脳皮質下白質に高信号域がみられることがあり、血液脳関門の破綻との関係が示唆される。 ただ実際には、敗血症による脳以外の臓器障害、および敗血症の治療自体、も脳障害を起こす。例えば、肺障害による低酸素性脳障害、凝固異常による脳出血、発作性心房細動による脳塞栓、肝障害に起因する意識障害、などである。さらに敗血症患者が敗血症の病態とは独立して急性期脳疾患(脳血管障害や髄膜炎など)を合併することもある。以上は従来、古典的な敗血症における脳障害の診断においては、鑑別すべき疾患であったが、診断法の進歩にもかかわらず鑑別が難しいこともあり、むしろ以上すべてを敗血症における脳障害として扱う考え方もある(Oddo 2015 776)。 このガイドラインでは、以上の経緯を踏まえて診療フローを作成し、CQを立案すると当時に、敗血症における脳障害に関連するいろいろな用語の整理、診断法としての脳CT/MRI、持続脳波モニタリングの意義の評価、敗血症に脳障害が合併することによる転帰への影響、などを検討する。