第46回日本集中治療医学会学術集会

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ジョイントシンポジウム

[JSY1] ジョイントシンポジウム1
(日本集中治療医学会・日本呼吸器学会) ARDS:病態からみた患者管理の組み立て方

Fri. Mar 1, 2019 9:00 AM - 10:30 AM 第1会場 (国立京都国際会館1F メインホール)

座長:讃井 將満(自治医科大学附属さいたま医療センター麻酔科・集中治療部), 田坂 定智(弘前大学呼吸器内科)

[JSY1-1] ARDSの疾患フェノタイプ

田坂 定智 (弘前大学 大学院医学研究科 呼吸器内科学)

ARDSは様々な病態を包含する症候群であり、有効な治療を行うために疾患のフェノタイプ(表現型)について検討が行われている。大規模臨床試験に登録されたARDS患者のバイオマーカーやその他の検査値などを検討したところ、大きく2つのフェノタイプに分けられた。そのうち、炎症の強いフェノタイプ(フェノタイプ2)は基礎疾患に敗血症のある患者が多く、炎症に関連するバイオマーカーが血中で増加し、昇圧薬の使用や敗血症、臓器不全の合併が多かった。フェノタイプ2の患者は予後が悪い一方で呼気終末陽圧換気(PEEP)の効果が出やすいことも示されており、予後予測や呼吸管理を行う上で考慮すべきかも知れない。2006年に発表されたFACTT試験では、循環が安定し平均動脈圧が60 mmHg 以上でショックの徴候のない症例において、水分制限と利尿薬により中心静脈圧を4 mmHg 未満、または肺動脈楔入圧を8 mmHg 未満を目標とする厳格な水分管理(conservative strategy)によって酸素化が改善し、人工呼吸使用日数が短縮することが示された。このFACTT試験の対象患者をフェノタイプで分けて再解析を行ったところ、前述のフェノタイプ2の患者ではconservative strategyにより生命予後が改善した一方、フェノタイプ1の患者は死亡率が高くなる傾向にあった。すなわち、疾患フェノタイプによってARDS患者の最適な水分管理の方針が異なる可能性が考えられる。他の研究グループからも、IL-8やTNF受容体といった炎症性メディエーターと重炭酸濃度とを組み合わせることで疾患フェノタイプをより的確に分けられる可能性が報告されている。どのような指標をもとにフェノタイプを分けるかによって、そのフェノタイプの意味するところが変わってくることも考えられる。ARDS患者の治療への反応性がフェノタイプによって異なる可能性があることから、ARDSのフェノタイプをどのように考え、いかに治療方針に反映させるのか、今後の研究が注目される。本講演ではARDSの疾患フェノタイプについての現時点での理解を概説し、個々の患者に対する最適な治療・管理にどのように結びつけていくのか考察したい。