第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

ジョイントシンポジウム

[JSY6] ジョイントシンポジウム6
(日本集中治療医学会・日本中毒学会) 中毒と血液浄化

2019年3月3日(日) 10:50 〜 12:20 第8会場 (国立京都国際会館2F Room B-1)

座長:伊関 憲(公立大学法人福島県立医科大学附属病院高度救命救急センター), 土井 研人(東京大学医学部救急科学)

[JSY6-1] EXTRIPから見た血液浄化法

杉田 学 (順天堂大学医学部附属練馬病院 救急・集中治療科)

ライブ配信】

急性中毒の治療は,①一般的な全身管理,②中毒原因物質の特定,③体内への吸収を阻害する,④既に吸収された物質を解毒・拮抗あるいは排泄促進する,4段階で行われる.世界的にみると,AACT(the American Academy of Clinical Toxicology)とEAPCCT(the European Association of Poisons Centres and Clinical Toxicologists)が1997年に中毒治療の標準化を図る目的にPosition paperを発表し,世界60カ国で承認された.我が国では日本中毒学会が「急性中毒の標準治療」を2003年に発表している.これらの資料は容易に入手でき治療方針を立てるのに有用であるが,広く一般の臨床現場に浸透しているかは疑問である.また他の疾患や症候群に比べ,エビデンスが乏しいため定期的なアップデートも行われることが少ない.
血液浄化療法の適応は,臨床的観点から見た適応,薬物動態学的・薬力学から見た適応から判断する必要がある.血液浄化療法自体には中毒患者の予後を改善する明確なエビデンスはないが,薬物の排泄を助ける補助的な治療方法である.しかし侵襲的な治療方法であるため,その適応は慎重に判断する必要がある.消化管で吸収され体循環に入った薬物は,体内のどのコンパートメントに分布するかによって血中濃度が決定される.このコンパートメントの大きさは一般に分布容量(Vd)と呼ばれ,脂溶性が高く,組織結合性が高いほどVdは高くなり,除去が困難になる. 薬物は血漿蛋白と可逆的に結合し,この割合を蛋白結合率(PB)で表す.PBの高い薬物は代謝,排泄を受けにくい.多くの医薬品はVdやPbが大きく,急性血液浄化法の適応とはならないが,致死的であり血中濃度が高い場合には効率が悪くてもこれらの治療が適応になる場合もあり得る.
急性血液浄化法には血液透析hemodialysis(HD)や血液濾過hemofiltration(HF),血液吸着hemoperfusion(HP)がある.EXTRIP workgroupは北米中毒学会を含む35学会で構成される団体で,中毒における血液浄化療法のsystematic reviewを行い,エビデンスとコンセンサスに基づく推奨を行っている.この中で血液浄化の第一選択はHDとなっており,HPやCRRTはHDが施行できない場合の代替として位置づけられている.近年,HPの施行頻度は減っており,その理由としてコストが高いことや,迅速に施行できる施設が限られていること,カルバマゼピン・フェニトイン・テオフィリンについてもhigh-flux膜の登場によりHDでもHP同様のクリアランスが得られるようになったこと,有効とされるパラコートやフェノバルビタールの中毒が減少していることなどが挙げられる.
本講演ではEXTRIP活動背景と発信内容から,標準的な排泄促進のための治療はどうあるべきかを改めて考える.