第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

教育セミナー(ランチョン)

[LS6] 教育セミナー(ランチョン)6

10年を迎えた 遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤に関する 5つの疑問そして、これから

2019年3月1日(金) 12:40 〜 13:40 第6会場 (国立京都国際会館1F スワン)

座長:射場 敏明(順天堂大学医学部救急・災害医学)

共催:旭化成ファーマ株式会社

[LS6-2] 敗血症性DICに対するrTMの有効性と持続的腎代替療法施行中の投与法

渡邉 栄三1,2 (1.東千葉メディカルセンター 救急科・集中治療部, 2.千葉大学大学院医学研究院 総合医科学講座)

本邦では,敗血症性DIC に対する抗凝固療法を行う施設は欧米と比較して多くみられる.なかでも,2008 年に上市されたリコンビナント・トロンボモジュリン(rTM)製剤は,敗血症性DICに対して広く使用されている抗凝固薬の一つである.しかしながら,現時点でrTMに関するエビデンスは十分とはいえず,その有用性についての結論は出ていない.そんな中,多国籍間第3 相試験が現在終了しており,その大規模RCTの結果が明らかにされようとしている.そして最近の多施設共同後ろ向き研究では,rTM投与による生存率改善効果を示す報告も蓄積されてきている.
一方,本邦でrTMの使用が拡大されてきているにも拘らず,敗血症性DICにしばしば導入される持続的血液濾過透析 (CHDF) 施行中のrTMの薬物動態や,その投与量についてはほとんど検討されていなかった.そしてrTMは腎排泄であるため,腎機能障害を有するDIC患者に対しては,投与量を約1/3に減量して処方するよう推奨されている.そこで我々は,CHDFを導入した敗血症性DIC患者に対して,rTMを低用量 (0.02mg/kg) と通常用量 (0.06mg/kg) で無作為に振り分けて投与し,同薬物動態や臨床効果を比較検討した.その結果,CHDFヘモフィルター膜(PMMA膜素材)前後でrTM血中濃度の減少は認められず,rTMの半減期,クリアランス,分布容積は両群で有意差はなかった.一方,rTMの最高血中濃度と血中濃度曲線下面積は約2.5倍通常用量群の方が高く,投与量に応じた血中濃度が確認された.また,投与期間中,有効血中濃度とされる500 ng/mL以上であった時間は,通常用量群で有意に長かった.結果的に,両群でrTMに蓄積性を認めず,転帰,出血性有害事象,DIC離脱率,rTM投与前後での各種血液検査データの変化量等にも差異はなかった.さらに,ほぼ同時期に行われた多施設共同前向き研究では,急性期DIC診断基準に基づくDIC患者のrTM血漿中濃度は,低用量群と通常用量群において,腎機能による違いは大きくなく,透析患者への減量も必須ではないと結論づけられている.
以上より,敗血症性DICに対しても,CHDF施行中のrTM投与量を一律に減量する必要はないと考えられる.しかしながら,敗血症に対するDIC治療は国際的には未だコンセンサスが得られていない現状である.さらに,一部のTHBD (トロンボモデュリン遺伝子) 多型のゲノタイプ別にTHBD発現の差異が認められており,敗血症転帰に影響を及ぼしていることが示唆されている.したがって,rTMの投与量に関しては,今後もより詳細な検討が必要であり,その投与量や適応症例の設定などを中心としたPrecision Medicineが敗血症救命率改善に繋がる可能性がある.