第46回日本集中治療医学会学術集会

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一般演題(口演)

患者管理

[O122] 一般演題・口演122
患者管理07

Sat. Mar 2, 2019 11:35 AM - 12:25 PM 第21会場 (グランドプリンスホテル京都B1F ローズルーム)

座長:平松 八重子(京都大学医学部附属病院看護部)

[O122-1] IoTを用いた手指衛生可視化の効果と限界

松山 千夏1, 重見 博子1, 室井 洋子1, 出野 義則3, 桑原 勇治2, 田崎 佐弥香2, 岩崎 博道1 (1.福井大学医学部附属病院 感染制御部, 2.福井大学医学部附属病院 集中治療部, 3.株式会社ケアコム)

【背景】医療関連感染防止のため標準予防策の徹底が必要であり、中でも手指衛生は最も基本で最も大切な対策である。しかし医療現場における手指衛生は不十分であることが指摘されている。当院では多面的なアプローチを行ってきたが、直接観察法が最も効果的であった。直接観察法は手指衛生の回数やタイミングの評価が可能である。遵守率の低いタイミングを確認し、その結果をフィードバックすることができるが、人的負担が大きく、観察者の技量によって結果が左右されやすい、ホーソン効果によるバイアス出現などの弱点もある。
【目的】先進的な情報技術であるInternet of things(IoT)を用いて手指衛生の実態把握とさらなる遵守率向上への応用と限界を検討(SCOPE)した。
【方法】2017年8月から10月の期間に、当院ICUに勤務する看護師37名を対象にIoTを用いて手指衛生状況を観察した。IoTによる検出端末を、看護師と携帯用手指消毒剤、ICU内の据え置き手指消毒剤と液体石鹸に設置した。手指衛生状況を評価するにあたり、カーテンもしくはドアより患者側を患者ゾーンとし、出入りした回数と手指衛生回数から遵守率を算出した。また2014年から2018年の間に感染管理リンクナースが実施した「患者接触前」「患者接触後」「患者周囲環境接触後」の8回分の直接観察法による遵守率を調査した。
【結果】蓄積したIoTデータを解析した結果、患者ゾーンへ出入りした回数は8月が120,261回、手指衛生回数は27,667回、遵守率は23.0%。9月は123,789回、手指衛生回数は23,514回、遵守率は19.0%。10月は98,278回、手指衛生回数は21,564回、遵守率は21.9%であった。直接観察法による遵守率の平均は「患者接触前」が76.7%(40.0~100)、「患者接触後」は84.2%(58.8~100)、「患者周囲環境接触後」は63.2%(31.0~100)であった。
【結論】IoTを用いた観察と直接観察法には遵守率に相違があることが明らかになった。IoTによる手指衛生の可視化は24時間、ICUで勤務する職員のデータを蓄積できるため、今後プログラミングされることで経時的なフィードバックは可能となるが、手指衛生遵守を評価するには現段階では限界がある。位置情報と手指衛生回数は遵守率を反映するものの適切なタイミングを正確に示すものではない。IoTを用いた手指衛生モニタリングは遵守状況を改善するための手段として有用であるが、直接観察法は今後も欠かせない手段であると考えられた。