[O129-4] 戦略的に腹臥位療法を行った重度呼吸不全患者の一症例
【背景】人工呼吸器は陽圧換気によるVILI(人工呼吸器惹起性肺障害)、換気血流比不均等、下側性肺障害による呼吸不全の増悪、高濃度酸素吸入(FiO2:0.6以上)による酸素中毒などの肺障害を合併するリスクがある。重症呼吸不全患者であるほどこれらの合併症に留意した呼吸器管理が必要である。【臨床経過】83歳男性、入院前ADLは自立。第1病日、肺炎球菌肺炎、肺化膿症、敗血症性ショック(SOFAスコア7点)の診断にて救急入院。同日よりICUにて挿管、呼吸器管理、抗菌薬を開始。FiO2:0.7、P/Fratio162、ノルアドレナリンを0.04γ使用。第2病日FiO2:0.65、P/F ratio141、CTにて下肺優位の両側浸潤影、下葉の無気肺(右>左)を認めた。コントロール不良の不整脈があり軽度の体位変換にとどまった。第3病日よりPT介入を開始しFiO2:0.4、P/Fratio258、呼吸音では背側にcoarse crackles、減弱(右<左)を認めた。RASS-2、姿勢変換に対して人工呼吸器との非同調ありプロポフォールボーラス投与、RASS-4~-5程度で管理。腹臥位にて約2時間管理後、胸部X線にて右下葉の無気肺は改善しFiO2:0.35、P/Fratio266となった。第4病日に抜管しNasal High Flow Therapyを開始。無鎮静のため可能な範囲での側臥位管理、端座位を実施。しかし、夜間より第5病日にかけて徐々に酸素化悪化しFiO2:1.0でも十分酸素化が維持できずP/Fratio72、再挿管し人工呼吸器管理を再開。同日、腹臥位療法を再開。3時間継続しFiO2:0.8から0.45に漸減、P/Fratio143で酸素化が可能となった。第6、7病日は週末となりPT介入なく可能な範囲での前傾側臥位継続を依頼。第8病日は延べ6時間程度腹臥位で管理しFiO2:0.35まで減量、P/Fratio280に改善。第9日目より腹臥位療法後、SAT、端座位を開始。第10病日に再度抜管しNPPVにて管理、P/Fratio350。その後離床を継続し第11病日に車椅子離床、立位訓練を開始。その後離床を継続し第16病日にICUを退室(SOFAスコア5点)。第56病日独歩にて自宅退院。【結論】腹臥位療法を導入することにより無気肺の解除や酸素化能の改善を図るとともに薬物療法による急性期治療中に高濃度(FiO2:0.6以上)の酸素吸入による肺障害リスクが低減できる。また陽圧換気による肺の過膨張を可及的に回避しVILIのリスクを低減する可能性がある。両側下側性肺障害を伴った重度呼吸不全の治療における肺保護戦略の一端として腹臥位療法の検討が有用ではないか。