[O136-6] 低体温回避が望ましいと思われた寒冷凝集素症患者の肺切除術術後ICUでアミノ酸製剤を使用した一例
【背景】寒冷凝集素症(以下、CAD)は自己免疫性溶血性貧血の一種で、低体温下で溶血性貧血を起こす。溶血性貧血の推定患者数は100万人対12-44人で、CADはその中の4%と極めて稀な疾患である。CAD患者の周術期管理報告は少ないが、正常体温を維持し低体温回避のため温風式加温装置や輸液加温装置を利用した報告がある。呼吸器外科手術は側臥位で行われることが多く温風式加温装置の効果が得られにくく低体温リスクが高い。周術期のアミノ酸製剤投与が体温上昇効果を有する可能性が示唆されているが術前もしくは麻酔終了までには投与終了している報告が多い。麻酔後は血管収縮やシバリングなどの自律性体温調節機能は回復するが、行動性体温調節は離床までは不十分な可能性があり、術後体温管理が重要と考えられる。CAD患者の肺手術後ICUで周術期体温管理を行い、術前のみならず術後ICUでアミノ酸製剤の静脈投与した症例を経験したため報告する。【臨床経過】症例は69歳男性。15年前に寒冷暴露による褐色尿を契機にCADと診断された。13年前原発性マクログロブリン血症と診断され、化学療法後寛解した。経過観察中、右肺下葉高分化腺癌が指摘され、全身麻酔下での肺切除術が計画された。術前検査では溶血を認めず、寒冷凝集素価2048倍と高値であった。手術2時間前より総合アミノ酸製剤200mlを2時間かけて静脈投与した。手術室入室時より温風式加温装置を使用し、四肢を可能な限り覆うように努め、輸液加温装置を使用した。体温は中枢温(膀胱)・末梢温(手掌)を測定した。手術室入室直後の末梢温は35.3度、麻酔導入直後の中枢温は36.6度、であった。側臥位で胸腔鏡下右肺S2+S6区域切除・リンパ節廓清術が行われ術中は中枢温・末梢温ともに上昇傾向であり褐色尿や末梢チアノーゼは認めなかった。手術時間4時間13分、麻酔時間6時間2分、出血量140gで、手術室で抜管し術後ICUでも総合アミノ酸製剤を静脈投与し、術後1病日で離床するまで継続した。ICU帰室から術後1病日で離床するまでの最低体温は中枢温37.6度、末梢温37.2度、臨床症状や検査で溶血は認められず、術後7病日で独歩退院した。【結論】CAD患者に、術前に加えて術後から離床までの期間アミノ酸製剤を投与した。周術期低体温は生じず溶血をきたすことはなかった。