第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

医療倫理

[O139] 一般演題・口演139
医療倫理

2019年3月3日(日) 09:45 〜 10:35 第11会場 (国立京都国際会館1F Room C-2)

座長:恒吉 勇男(宮崎大学医学部附属病院集中治療部)

[O139-4] 元々人工換気等の処置を希望していない男性に対して人工呼吸管理を行い気管切開にまで至った一例

加藤 之紀, 筒井 徹, 河村 夏生, 高場 章宏, 櫻谷 正明, 松本 丈雄, 西山 千尋, 吉田 研一 (JA広島総合病院)

【背景】 患者が意識障害などで自己決定能力を欠く状態に陥った際のために、受けたい、または受けたくない治療を意思表示しておくことを広義のリビングウィルと呼び、有事の際方針決定に大きな意味を持つ。しかし患者が自己決定能力を有する状態であれば、事前のリビングウィルではなくその時点の本人の意思が優先される。リビングウィルの確認が事前に困難な状況下で医療処置を行われ、その後意識清明となり自己決定能力が回復した場合、回復時点の本人の意思が優先されるがその選択は直接生死を分けるものになる。その上で選択を求めるのか、またその極限状態での選択が今までの人生観と相いれるのか医療者は倫理的立場に困ることがある。【臨床経過】 患者は小児脳性麻痺の既往あり、ヘルパーの介助下で生活していた68歳男性。胸郭変形あり喫煙者でもあり、呼吸不全指摘されていたが医療機関受診や入院は拒否し往診医にて在宅酸素療法を導入されていた。患者は常日頃から人工呼吸器などの導入を拒否しており、入院や延命治療にも拒否的であった。来院当日自宅にて意識レベルが低下している所を訪問看護師にて発見され救急搬送。意識レベルはJCS300で室内気でのSpO2Oは60%台と全身状態が悪く、家族の到着よりも早く救急外来にて気管内挿管され人工呼吸管理を開始された。来院時の血液ガスではpH7.048、PaCO2O 177mmHgと著明な呼吸性アシドーシスを認めた。家族来院後に以前からの意思を確認し治療撤退の方針であったが、人工換気によって意識レベルは清明となった。経過から今後人工呼吸器依存となる可能性が高いと思われ、本人と相談したところ悩まれながら人工呼吸器管理継続を希望された。呼吸器管理継続したが短期間での呼吸器離脱は困難であり本人と相談の上第18病日に気管切開施行した。本人は自宅退院を希望しリハビリ強化、継続により第48病日に呼吸器離脱し現在リハビリ目的の転院調整中である。【結論】 この症例では結果的に本人が望む自宅退院に対して前進しているが、本人がもともと希望していなかった人工呼吸器依存の状態でその後経過していた可能性もある。呼吸器離脱が生死に直結することが明らかな状態でその継続を本人に伺うことが本人の人生観を反映した意思といえるのか判断は難しく各学会の声明や文献的考察を含め報告する。