[O139-6] 治療の適応についての臨床倫理的考察-多発性骨髄腫治療中shockに陥りV-A ECMOを導入された一例を通して
【背景】敗血症性shockに対するV-A ECMO導入の報告は近年散見されるようになり、その有効性が注目されている。しかし症例数はまだ少なく、導入や管理にスキルやマンパワーを必要とし、合併症やコストの問題があることなどから、実際には限られた施設でしか施行できない。今回担癌患者の難治性敗血症性shockに対しV-A ECMOを導入し蘇生、治療の末独歩で自宅退院できた症例を経験した。これを通して、導入の適応について臨床倫理的アプローチをもとに考察したい。【症例】67歳男性、8年来多発性骨髄腫に対し抗がん剤治療を繰り返し行い、頻回に肺炎を合併して入退院を繰り返してきが、再び重症肺炎を発症、同日shockとなりICU入室となった。肺炎からの敗血症性shockと考え、気管挿管・人工呼吸管理、輸液、抗生剤投与、カテコラミンなどの薬剤投与などで治療するも、低酸素血症、血圧低下、200回/分以上の上室性頻脈から離脱できず徐々に悪化、β遮断薬やDCも試みるも効果なく、救命のためには循環と酸素化の両方を支えるV-A ECMOしかないと判断した。しかし、主治医である血液内科医が不在で原疾患の現在の状態や予後、患者背景などについての情報が乏しく、本人の意思も確認できず、導入の適応について病棟主治医とICU医、循環器内科医で協議し、ご家族に十分な説明を行ったうえで同意を得て導入し蘇生することができた。第7病日にV-A ECMO離脱、同日肺炎治療継続のため気管切開、第15病日ICU退室、その後気切孔閉鎖し、第72病日自宅退院となった。【考察】敗血症性ショックに対するV-A ECMOの有効性は70%と高く、長期予後に関しても良好であるとの報告がある1)。しかし、リスクを伴う治療法であり、また、導入するも救命が得られず延命となってしまう可能性もある。その導入に際しては、医学的適応の的確な判断と同時に、ACP等による患者本人の意思の確認が必要であり、また社会的観点からの適応も考えなくてはならない。V-A ECMOをはじめ今後高度な治療は益々発展していき、担癌患者や高齢者、認知症や慢性疾患罹患患者は増え続け、治療の導入について即断し難いケースが更に増えていくことが予想される中、クリティカルケアに関与する医療者は医学的判断と同時に臨床倫理的判断に関する知識が必須である。1) Crit Care Med 2013;41:1616-1626