[O157-1] 母親の脳死下臓器提供を決めた息子達の意思決定プロセスを支援した一事例
【はじめに】A病院救命病棟では、脳死下臓器提供事例の経験が乏しく、家族の意思決定支援に困惑することがあった。今回、脳死となった母親に対して、息子達の「どんな形でも生きていてほしい」という言葉を転機に臓器提供に至った事例を経験した。そこで家族の意思決定プロセスを山勢らの脳死患者家族の心理的対処プロセスモデルと照合し実践したケアを考察したので報告する。【意思決定プロセス】A氏:45歳女性。クモ膜下出血grade5。積極的治療の適応なしと判断。第20病日に臓器提供に至った。1.驚愕期:発症~オプション提示発症を聞き来院した息子3人は母親の変わり果てた姿に取り乱し泣き叫ぶ状況であった。中でも長男の悲嘆が著しく他の2人も落胆する姿が見られた。第6病日に脳死とされうる状態と判断され、息子らとA氏の妹に対して、オプション提示がなされた。次男と三男は「これ以上傷つけたくない」と臓器提供を拒否した。しかし長男は腎移植を待機する知人の存在があり逡巡する様子があった。3人それぞれの思いを否定せず傾聴し、3人の関係性が保持できるように声かけを行い、それぞれの思いを表出できるように関わった。2.混乱期:オプション提示~第12病日オプション提示後、返答を急かさないことを医療チームで共有した。次男と三男は反対、長男は迷い、A氏の妹は3人の母親なのだからよく話し合うように促していた。3兄弟は仕事の都合等もあり異なる時間で面会されることが増えた。面会時は、3兄弟それぞれの思いを傾聴し、現状の理解と受容を支援した。第6病日に医師からの病状説明時に「僕らはどんな形でも(母親に)生きていてほしいんです。」との長男の発言を機に、3兄弟の脳死下臓器提供に対する考えに変化が生じた。3.現実検討期3兄弟より臓器提供に至るプロセスや「移植の時は麻酔するのですか」との質問など関心の高まりが示唆された。しかし臓器提供は家族の総意であることが前提であり、不確かで不安定な心情に寄り添い家族内検討を促した。4.受容期死後のメイクや家族写真の希望があり、息子達が残された時間の過ごし方を考え始めたことを察し調整を図った。また脳死判定に同席を希望され、医療チームとして支援を行い、家族の見守る中死亡宣告となった。【結論】本事例を通して重要な家族の死を覚悟し、脳死下臓器提供を意思決定する家族の揺れ動く心理に寄り添い、必要なケアを構築していく重要性を学んだ。