第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

精神・心理

[O159] 一般演題・口演159
精神・心理

2019年3月3日(日) 10:35 〜 11:25 第16会場 (国立京都国際会館2F Room I)

座長:安宅 一晃(奈良県総合医療センター集中治療部)

[O159-5] 12誘導心電図で典型的なaVRでR波増高を認めた三環系抗うつ薬中毒加療中の希死念慮にケタミンが奏功した1例

大野 博司 (洛和会音羽病院ICU/CCU)

 うつ病患者での三環系抗うつ薬(以下TCA)過剰服薬は自殺企図で最も毒性が強く死亡率が高い。TCA過剰服薬による死亡原因としては、主に中枢神経系と心毒性があり、意識障害、低血圧、致死的不整脈を起こす。 TCA過剰服薬による中毒症状は非特異的であり、血中TCA濃度測定も迅速には行えないためTCA過剰服薬の診断は難しい。しかし12誘導心電図での特異的な所見がTCA過剰服薬の診断および致死的不整脈のリスク評価に役立つ。TCA過剰服薬での心電図変化として、QRS幅≧100ms、QTc間隔>430ms、右軸偏位120~270度、aVR誘導でR/S比>0.7、aVR誘導でR波>3mm、がある。これらの変化はNaチャネル拮抗によって起こる。とくにaVR誘導でのR波増高はTCA過剰服薬に典型的である。 またケタミンを用いることで自殺企図による希死念慮を迅速に抑制する効果が報告されている。 今回、自殺企図目的でTCA過剰服薬による意識障害でER救急搬送となり、典型的な12誘導心電図所見およびトライエージを用い、迅速に診断し呼吸・循環管理と炭酸水素ナトリウム投与および入院後の著明な希死念慮にケタミンが奏功し救命できた1例を経験した。症例報告とともにTCA過剰服薬の診断・治療アルゴリズムとともに強い希死念慮に対するケタミンの効果について文献を含めて考察する。 症例はうつ病の既往のある39歳女性。三環系抗うつ薬イミプラミン、ベンゾジアゼピンなど複数の精神安定剤内服中。意識障害でER救急搬送。来院時JCS3-200~300、痛み刺激で反応なし。12誘導心電図でaVRでR波増高、QT延長あり。挿管・人工呼吸器管理および炭酸水素ナトリウム静注。経鼻胃管より活性炭投与時に痙攣あり。全身管理目的でICU入室となった。 鎮痛なしで鎮静・抗痙攣目的でプロポフォール使用し、人工呼吸器AC VC管理。循環作動薬は必要とせず、12誘導心電図の頻回のモニタリングの上、QT延長にK、Mg補正およびaVRのR波増高に対してpH7.5、Na140以上を目標にしてNaHCO3投与を繰り返した。2病日に意識レベル改善し人工呼吸器離脱・抜管となった。抜管後に「死にたい」と希死念慮・焦燥感・不穏著明であり、ケタミン持続静注を開始した。ケタミン開始3時間で焦燥感・不穏は軽減した。3病日までケタミンを続けるとともに12誘導心電図正常化を確認した。全身状態安定し6病日にICU退室し精神科専門病院転院となった。