第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

鎮痛・鎮静・せん妄

[O16] 一般演題・口演16
鎮痛・鎮静・せん妄01

2019年3月1日(金) 09:00 〜 10:00 第8会場 (国立京都国際会館2F Room B-1)

座長:林下 浩士(大阪市立総合医療センター 救命救急センター・集中治療センター)

[O16-1] 皮下トンネルを用いた硬膜外麻酔により気管挿管を回避し得た,重症糖尿病患者の外傷性多発肋骨骨折の一例

新庄 慶大1, 藤井 雅士2, 白川 努1, 長門 優3 (1.長浜赤十字病院 救急科, 2.長浜赤十字病院 麻酔科, 3.長浜赤十字病院 集中治療科)

【背景】肺挫傷をともなう多発肋骨骨折患者では,疼痛による自発呼吸や咳嗽の抑制で無気肺形成を来たし,肺挫傷による肺コンプライアンスの低下とシャント率が増加することで,結果的に低酸素血症から呼吸不全を呈することが問題となる.治療は十分な鎮痛と呼吸不全に準じた管理を行うことが推奨されている.硬膜外麻酔は肋骨骨折の疼痛軽減に有効であるが,4日を超える硬膜外カテーテル留置は感染発症のリスクをともない,特に糖尿病の既往はリスクを増大させる.持続硬膜外麻酔の感染対策としては,皮下トンネルの作成が有効であると報告されている.今回我々は糖尿病患者の外傷性多発肋骨骨折に対し,皮下トンネルを用いた持続硬膜外麻酔を行うことで気管挿管を回避し得た一例を経験したので報告する.【臨床経過】既往歴に未治療の2型糖尿病のある29歳男性,172cm,68kg.大型バイク走行中に対向車と衝突し受傷した.CTで多発肋骨骨折,両肺挫傷,両肺に少量の血気胸を認める他,右鎖骨・肩甲骨骨折,左膝蓋骨骨折を認めた.なお入院時のHbA1c は15.5%であった.ICU入室後,全身の疼痛に対してフェンタニル1μg/kg/hrの持続静注を開始し安静時の疼痛コントロールは良好であった.第2病日,全身発汗著明で表情苦悶様,頻呼吸(RR>30回/分)となり,動脈血ガス上,低酸素血症と高二酸化炭素血症(pO2 62.2mmHg,pCO2 75.8mmHg(マスク4L下))を認めた.CTでは左側優位に浸潤影の増悪と無気肺形成を認め,痰による上気道閉塞が疑われた.気管挿管を念頭に置きながらも,まずは硬膜外麻酔による鎮痛強化を行うこととした.Th6/7より穿刺し,感染予防として皮下トンネルも同時に作成した.硬膜外麻酔開始後,速やかにしっかりとした咳嗽が可能となり,多量の排痰を認めた.ほどなく低酸素血症も改善し気管挿管は回避することができた.第6病日,四肢の観血的接合術を施行,第11病日,内服での疼痛コントロール可能となり硬膜外麻酔を終了した.硬膜外麻酔刺入部の発赤や叩打痛など硬膜外膿瘍を疑う所見は認められなかった.【結論】持続硬膜外麻酔を行うことで気管挿管を回避しえた多発肋骨骨折患者の一例を経験した。糖尿病など易感染性の基礎疾患がある場合には、感染予防のために皮下トンネルを作成することを選択肢の一つとして考慮する価値がある.