[O16-2] 開腹手術後に持続腹直筋鞘ブロックで鎮痛を行った筋委縮性側索硬化症(ALS)の1症例
背景:開腹術の術後鎮痛には麻薬の全身投与や硬膜外麻酔が行われることが多いが、筋委縮性側索硬化症(ALS)患者では、麻薬の持続投与は容易に呼吸抑制を起こす危険性があり、硬膜外麻酔の使用には議論がある。今回、胃空腸バイパス手術を行ったALS患者に、術後鎮痛手段として持続腹直筋鞘ブロック(RSB)を行った結果、排痰困難時の排痰介助機器(カフアシスト)の導入が容易であり、呼吸器合併症の発症を未然に防止できたので報告する。臨床経過:50歳台、女性。13年前から筋力低下を自覚しALSと診断されていた。ALSの通院中に胃癌が見つかり、開腹下胃空腸バイパス術が予定された。術前状態は、日常生活は全介助、著明な四肢の筋力低下や構語障害があった。手術室にて全身麻酔導入後に両側上腹部にRSBを単回投与で施行し、手術終了時に、術後鎮痛のため創部の両側にRSB持続注入用カテーテルを挿入した。挿管のままICUに入室し3時間後に抜管した。0.2%ロピバカインで持続RSBを行い、NRSは3以下で経過した。術後1日目にICUを退室したが、排痰困難、発熱、頻脈となり、術後2日目に再度ICUに入室した。ICUでは、持続RSB下に、排痰介助機器を使用した排痰促進と体位ドレナージを開始したが、鎮痛状態を悪化させることなく施行可能であった。排痰介助を繰り返すことで、発熱、炎症反応は次第に低下し、術後5日目にICUを退室し、呼吸器合併症を起こすことなく退院した。結論: ALS患者が開腹術を受ける場合、意識や呼吸状態の悪化、筋力低下を来さない鎮痛方法の選択が重要である。持続RSBは創部に限局した鎮痛が可能であるが、手術の妨げになるため、手術終了後にカテーテルを挿入しなければならないことが欠点である。しかし浅い部位で施行するため超音波装置使用下では針やカテーテルの視認性もよく、手技が容易で安全性の高い鎮痛方法である。低濃度の局所麻酔薬を使用することで、ALS患者でも筋力や呼吸や循環への影響がほとんどない。ALS患者の開腹術後には、必要時に排痰介助機器や呼吸補助治療の導入を遅らせないことが重要であり、痛みで施行が中断しないためにも、持続RSBでの鎮痛は有効な方法であると考える。