第46回日本集中治療医学会学術集会

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一般演題(口演)

感染・敗血症 症例

[O18] 一般演題・口演18
感染・敗血症 症例02

Fri. Mar 1, 2019 10:50 AM - 11:40 AM 第8会場 (国立京都国際会館2F Room B-1)

座長:森村 尚登(東京大学大学院医学系研究科救急科学)

[O18-5] 海岸での受傷から急速な下腿軟部組織壊死を呈したPhotobacterium damsela感染による敗血症性ショックの一例

椎野 明日実1, 遠藤 武尊1,2, 大竹 晶子1, 尾辻 健1, 清水 智子1, 荒井 秀明1, 内田 貴之1, 原山 信也1, 相原 啓二1, 蒲地 正幸1 (1.産業医科大学病院 集中治療部, 2.産業医科大学病院 麻酔科学講座)

【背景】Vibrio属は海岸での受傷を機に発症する重症軟部組織感染症として知られ、「人食いバクテリア」としても有名である。一方、類縁菌であるPhotobacterium damsela(P.damsela)も、稀だが海岸での受傷により発症する。より急速で重篤な経過を呈する細菌である事は、あまり知られていない。【症例】78歳男性。拡張型心筋症、重症筋無力症、リウマチがありステロイド内服中であった。来院2日前に海岸で両膝擦過傷を受傷した。直後は創部痛のみだったが、徐々に左下腿の疼痛増悪、発赤拡大し、来院1時間前から悪寒も伴っていた。来院時39℃台の発熱、ショック状態であり左下腿には激しい疼痛と紫斑の出現を認めた。挿管後ICU入室となるも進行の早さと局所所見より壊死性筋膜炎を疑い、直ちにデブリドマンと筋膜切開術を施行した。術後は敗血症性ショックとして加療。ショックは重篤であり血圧維持にバソプレシン、アドレナリンの持続投与を要した。病歴よりVibrio属感染を想定しカルバペネムと抗MRSA薬の広域抗菌薬投与、CRRTおよびPMX、γグロブリン製剤を併用した。またDIC(急性期DICスコア 4点)に対して各種輸血とトロンボモデュリン製剤を投与した。血液培養提出から約8時間程度でグラム陰性桿菌が検出され、翌日にはP.damselaが同定されたため、ニューキノロン系抗菌薬を追加した。次第に全身状態は安定化し、第5病日にカテコラミン離脱できた。経過中に後腹膜血腫の合併も認めたが、第10病日に下腿再手術、第16病日の抜管を経て、第29病日にICUから退室した。現在、温存できた下腿の皮膚欠損に対して局所陰圧閉鎖療法、リハビリを施行している。【考察】P.damselaの感染は、検索しうる限り2015年までで本邦で2例、海外では11例の報告がある。生存は3例と致死率は極めて高かった。Vibrio属と同様に基礎疾患の存在が発症リスクとされるが、Vibrio属にはない細胞溶解性毒素(damselysin)が分離されており重篤化への寄与が考えられている。本症例が救命し得た、最も大きな要因は即日の外科的処置であったと考えられる。また、早期に施行したPMXやCRRTも毒素除去に有効であったかも知れない。【結語】P.damselaによる重症軟部組織感染症の1例を経験した。海岸での受傷機転は、Vibrio属以外にも同菌による急速かつ重篤な経過を辿る症例がある。リスクを有する患者の海岸での受傷機転では、早急な外科的処置を含めた治療介入を行う必要がある。