[O31-1] 重症頭部外傷後の入院管理中に広範囲腸管壊死を来し、切除なしで長期生存を得られた1症例
【背景】一般に腸管虚血が進行し、壊死に陥った場合は生命にかかわるため、手術による切除が必要と考えられている。実際、広範囲腸管壊死に対して切除することなく生命を永らえたという報告は見当たらなかった。今回我々は広範囲壊死に対して開腹術を選択したが壊死腸管を切除できず、術後3カ月にわたり生存を続けている症例を経験したので報告する。【臨床経過】症例:22歳女性。交通外傷により心肺停止となり救急搬送された。来院後アドレナリン1A投与し、ROSCが得られた。患者は昏睡状態で瞳孔は両側散大し、頭部CTでは頭蓋底骨折、外傷性SAH、びまん性脳腫脹を認めた。また、頭蓋底骨折によると思われる多量の鼻出血が口腔内にあふれ、気管挿管、人工呼吸管理を開始した。ROSC後も血圧低値が遷延し、大量輸血とともに高用量のノルアドレナリン持続投与を要した。体幹部CTでは両肺背側浸潤影を認め、誤嚥による呼吸不全と考えられた。即日ICUに入室し、全身管理を行った。経過中多尿が持続し、高Na血症が進行したため中枢性尿崩症と診断し、バソプレシンの持続投与を開始した。その後バソプレシンは内服、点鼻薬に変更し、一般病棟へ転出し、全身管理を継続していた。第74病日腹満、嘔吐、血圧低下を認めたため腹部CTを撮影したところ、胃~広範囲小腸にかけての腸管気腫と著明な門脈気腫を認め、広範囲腸管壊死と診断した。尿量コントロール不良からくる腸管循環の不安定が原因と考えられた。神経学的予後不良のケースであったが家族と相談し、同日開腹術を施行した。開腹すると胃・小腸は拡張著明であり、Treitz靭帯から肛門側240cmにかけての小腸色調不良であり、十二指腸から空腸にかけては斑状に黒色となっていた。根治を目指すための膵頭十二指腸切除は全身状態不良で困難と判断。また小腸のみの切除も侵襲のみで意義に乏しいため断念し、イレウス管留置による減圧のみで手術を終了した。第100病日の造影CTでは壊死腸管が腸管膜内で一塊の膿瘍腔となって十二指腸と交通し、内部にイレウス管がとぐろを巻いている所見が得られた。その後イレウス管を少しずつ引くことにより膿瘍腔は縮小したが残存した。腸管機能は破綻したが第170病日にいたるまで生存が得られている。【結論】切除不能の広範囲腸管壊死は必ずしも致死的経過をたどるとは限らない