[O31-2] ネオスチグミンが著効したOgilvie症候群の1症例
【背景】腸管自体に機械的閉塞が無いが、結腸の異常な拡張を来す病態を急性偽性結腸閉塞症(Ogilvie症候群)という。自律神経の障害が病態として考えられ、術後患者や心筋梗塞、心不全などの重症内科患者に起こるとされる。保存的加療が奏功せず盲腸が異常拡張すると、腸管壊死、穿孔のリスクが高まるとされ、積極的な治療介入を要する。今回、急性心不全治療患者にOgilvie症候群を合併し、ネオスチグミン静注により迅速な改善を得た症例を経験したため報告する。【臨床経過】大腸癌で右結腸手術後。糖尿病、高血圧、閉塞性動脈硬化症でステント治療を既往にもつ81歳男性。呼吸困難で当院救命センターに搬送された。来院時、胸部X線でうっ血像、心臓超音波で低左心機能、12誘導心電図で虚血性変化を認めたため大動脈内バルーンパンピング(IABP)挿入後、心臓カテーテル検査施行。LCXに90%狭窄を認め、同部位が責任病変と考えPCI施行。入院後、心筋逸脱酵素の上昇を認めず、虚血性心筋症に伴う急性左心不全と診断し入院加療した。第3病日にIABPを離脱。第7病日に抜管したが、誤嚥性肺炎で第10病日に再挿管し、長期呼吸器管理のため第17病日に気管切開施行。その頃より腹部膨満、嘔吐が出現し、メトクロプラミド注30mg/day、パンテノール1000mg/day、六君子湯7.5g/day、大建中湯15g/dayを併用したが、結腸ガスの増悪を認めた。経肛門カテーテルを挿入し、一時的に結腸ガスの改善を得たが、すぐに再燃した。CTでは小腸拡張や閉塞機転は認めず、結腸の異常な拡張を認めたことからOgilvie症候群と考え、ネオスチグミン2mgを静脈投与した。投与後5分ほどで速やかな排ガス、排便を認め、目に見えて腹部膨隆も改善した。投与中に薬剤の副作用で徐脈を呈したが、循環動態に影響はなかった。経管栄養を経十二指腸チューブに変更し、脱気用チューブを胃内に留置することでガス貯留が緩徐となり、呑気がガス貯留の原因の一つと考えられた。リハビリで長期入院を要したが、スピーチカニューレも抜去され、第155病日に独歩自宅退院となった。【結論】Ogilvie症候群は絶食、補液、胃管挿入による保存的加療で24時間から48時間以内に改善しない場合は積極的な治療を要する。本症例は保存的治療で奏功しなかった。内視鏡的減圧術も考慮されたがガスの供給により穿孔のリスクもあった。ネオスチグミン投与が著効し、病態改善にリーズナブルな方法と考えられた。