第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

腎 研究

[O32] 一般演題・口演32
腎 研究01

2019年3月1日(金) 15:50 〜 16:40 第9会場 (国立京都国際会館2F Room B-2)

座長:成宮 博理(京都第二赤十字病院救急科)

[O32-5] 人工心肺使用手術中の腎全体・局所の灌流と酸素化の評価 -羊モデルを用いて-

井口 直也1,2,3, Yugeesh Lankadeva1, Roger Evans4, Clive May1 (1.Pre-clinical Critical Care Unit, Florey Institute, 2.Department of Intensive Care, Austin Hospital, 3.大阪大学大学院医学系研究科, 4.Department of Physiology, Monash University)

【背景】急性腎傷害は人工心肺使用心臓外科手術の30%に認められる主要な合併症である。人工心肺使用手術後急性腎傷害の病態生理は依然不明なため、術後急性腎傷害を予防する介入方法は存在しない。
【目的】(1)人工心肺の確立による腎全体・局所の灌流と酸素化への影響を検討する。(2)人工心肺使用中に人工心肺の血液流量を変化させた時の腎全体・局所の灌流と酸素化への影響を検討する。
【方法】羊(7頭)を用いた。全身麻酔下に腎動脈に血流量測定用プローベの装着、腎髄質皮質に組織灌流および酸素分圧測定用のファイバーオプティックプローベを挿入し、その後覚醒させた。5日後に覚醒状態でベースラインを記録し、その後に全身麻酔を行い、人工心肺を確立した。全身麻酔後から実験終了まで吸入酸素濃度は60%とした。人工心肺の血液流量を80mL/kg/minをベースラインとして開始し、血液流量を60, 80, 100mL/kg/minとランダムに変化させた。平均血圧70mmHgを維持するように、必要時は血管収縮薬の投与を行った。
【結果】覚醒時と比較し、人工心肺中は総腎血流量(287 ± 21 から 109 ± 19 mL/min)、腎髄質組織灌流量(720 ± 127 から 222 ± 42 Blood Perfusion Unit)、腎髄質酸素分圧(48 ± 5 から 22 ± 7 mmHg)は有意に低下した(全て P < 0.01)。人工心肺中、腎皮質還流量(1954 ± 378 から 872 ± 112 Blood Perfusion Unit)は減少したにも関わらず、腎皮質酸素分圧(46 ± 3 から 70 ± 17 mmHg)は上昇した。人工心肺の血液流量を低下させると腎髄質低酸素は増悪した(11 ± 3 mmHg)が、一方、人工心肺の血液流量を増加させると、腎髄質組織酸素分圧は改善する傾向にあった(29 ± 7 mmHg)。
【結論】人工心肺使用手術は総腎血流量、腎髄質灌流・酸素分圧、腎皮質灌流量を低下させた。腎皮質酸素分圧は高い吸入酸素濃度により維持された。腎髄質低酸素は人工心肺使用後の急性腎傷害の重要な因子である可能性がある。それ故、人工心肺の灌流状態を最適化することにより腎髄質低酸素を避けることは、術後急性腎傷害を減らす実行可能な方法となる可能性が示唆された。