[O37-2] 難治性冠攣縮性狭心症発作にRho-kinase inhibitor塩酸ファスジルが著効した1症例
【背景】冠攣縮性狭心症は硝酸薬やCa2+ channel blockerなどの薬物治療がなされることが多いが、時に多種の薬剤に抵抗する難治性冠攣縮のため心筋虚血が解除できず、救命にveno-arterial (va) ECMOを要するような重篤な症例も存在する。今回我々は、アナフィラキシー様反応を契機に発症した難治性冠攣縮に対して、Rho-kinase inhibitorである塩酸ファスジルが著効した症例を経験したので報告する。【臨床経過】症例は60歳代男性。造影CTでアナフィラキシー様反応からショックに陥った既往がある。多発性の肝細胞癌に対して、造影剤アレルギーのためCO2ガス使用下での複数回の肝動脈化学塞栓療法、また肝動注化学療法が過去に施行されていた。今回もCO2ガス使用下での肝動注化学療法が施行されたが、血管造影室から病棟に帰室直後より呼吸苦の訴えの後に血圧低下、意識レベル低下をきたし、ショック状態に陥った。アドレナリン投与と喉頭浮腫を警戒しての気管挿管がなされ、呼吸・循環動態は安定しICUに入室となった。ICU入室時は心電図異常を認めていなかったが、その後前胸部誘導でのST上昇とQRS開大しpulseless VTに陥った。心臓超音波検査では前壁-前壁中隔の壁運動低下を認め、前下行枝領域の心筋虚血と思われた。アナフィラキシー様反応に続発した前下行枝の冠攣縮と考え、冠攣縮解除目的に硝酸イソソルビド、ニコランジル、硫酸マグネシウムの静脈内投与を行ったが無効であった。救命のためのva ECMO緊急導入の準備をしながら、塩酸ファスジルを投与したところ、心電図上のST上昇は軽快し、心臓超音波検査でも前壁-前壁中隔の壁運動は改善した。塩酸ファスジルで冠攣縮は解除されたものと考えられたことから、心臓カテーテル検査は造影剤の使用から致命的となる可能性を考慮して施行しなかった。急性期は硝酸イソソルビドとニコランジルの持続投与を行い、その後硝酸イソソルビド貼付剤、ニコランジル、ベニジピンとH1、H2 blockerの内服下で冠攣縮の再発なく経過、独歩退院した。【結論】塩酸ファスジルはくも膜下出血後の脳血管攣縮予防として広く用いられており、ICU領域で使用頻度の高い薬剤である。塩酸ファスジルはRho kinase inhibitorとして難治性冠攣縮にも極めて有用性が高いと思われ、多剤無効な重篤な冠攣縮に対して、救命目的に使用しうる選択肢と考えられた。