[O37-6] 人工弁構造破壊に伴う急性僧帽弁閉鎖不全症にwarm shockが合併し、PCPS挿入、人工弁置換術にて救命した症例
【背景】感染性心内膜炎の治療に関する指針は2017年に日本循環学会を始めとする合同研究班の定めたものがあり、人工弁感染で心不全、治療抵抗性の感染、塞栓を合併した時は積極的な外科的治療が推奨されている。その一方で末梢血管抵抗が破綻している状態での侵襲的治療はリスクが高く、適切な手術のタイミングについて議論の余地のあるところではある。【症例】今回、我々は僧帽弁人工弁構造劣化に伴う急性僧帽弁閉鎖不全症にwarm shockが合併し、術前にPCPS挿入を要し、その後僧帽弁再置換術にて救命した症例を経験したので報告する。患者は73歳女性。12年前に大動脈弁置換術および僧帽弁置換術、DDDペースメーカー植え込み術を受けた。今回の手術の三か月前の心臓超音波検査では僧帽弁弁位の生体弁の弁尖の石灰化を認め、中等度の狭窄と軽度の逆流を認めるようになっていた。朝方からの突然の倦怠感を主訴に来院。心エコーでは3ヶ月前と比較して生体弁の一尖の動きの低下と構造劣化に伴う逆流量の増加を認めた。胸部レントゲンでは肺うっ血と右の葉間胸水を認め緊急入院となった。この時点では発熱なく、炎症所見の上昇認めず。1週間前に歯科治療を抗生剤なしで受けた経緯はあったが、発熱、倦怠感は特に認めていなかった。入院後に呼吸苦増悪し、挿管の上、人工呼吸器での管理となった。その後も循環動態は増悪、心係数は3前後と低下ないもの体血圧は80台、末梢は温かくwarm shock状態。IABP、右大腿動静脈からPCPS挿入するも、アシドーシスの進行が改善せず、緊急手術となった。再手術として僧帽弁置換術を施行。弁の1尖はステントから外れていた。明らかな疣贅は認めなかったものの急性期の炎症性の変化を伺わせる所見を弁尖と後尖の内側弁輪部に認めた。人工弁置換術後は循環動態改善しPCPSから離脱。IABPは2PODに抜去。弁からも血液培養からも菌は同定されなかったが、抗生剤(VCM,MEPM,GM)を4週間継続。術後の心エコーでは弁の機能に異常なく、疣贅も認めず。35PODに退院となった。【結論】急性心不全に敗血症性ショックを合併した病態では手術のタイミングは議論が生じるところである。末梢血管抵抗が破綻しているところで人工心肺を使用した侵襲的手術のリスクは高い。しかしながら、薬物治療による改善が得られない時は事態打開のために積極的な外科的介入が必要なこともあることを経験できた症例であった。