[O58-6] 高齢ラット敗血症モデル認知機能障害における塩化リチウムの効果
【背景】敗血症は、標準的治療の向上・普及に伴い、その救命率も高くなっている。一方、生存退院した敗血症患者は、特に高齢患者で認知機能障害が生じ, 生活の質低下に関連していることが報告されている。敗血症後認知機能障害の詳細な機序は明らかでなく、確立した治療法も存在しないが、近年、脳内神経炎症の重要性が注目されている。双極性感情障害の治療薬である塩化リチウム (LiCL) は、抗脳内神経炎作用および抗アルツハイマー病効果の報告があるが、敗血症後認知機能障害に対する有効性は検討されていない。【目的】敗血症後生存高齢ラットの認知機能障害に及ぼすLiCLの影響を検討する。【方法】20-22ヶ月齢の高齢雄性ラットを対象とした。敗血症モデルとして、イソフルラン麻酔下に盲腸結紮穿刺手術(CLP: Cecal ligation puncture)を施行した。ラットを対照群、CLP群、CLP+LiCL群に振り分け、各群n=8とした。LiCL (25mg/kg: in vivo研究で脳保護が期待できる投与量) は、術後1時間後に腹腔内投与した。手術1週間後、認知機能を新規物体認識試験により評価した。認知機能評価後、海馬サイトカイン濃度 (IL-1β、TNF-α) をELISA法で測定した。各群の比較はKruskal-WallisとBonferroni検定を、相関係数の算出にはSpearman順位相関法を用い、p<0.05を有意とした。【結果】予備研究においてLiCL投与単独では認知機能および脳内神経炎症に影響を与えなかった (n=3)。対照群と比較してCLP群では有意な新奇物体への嗜好性低下(74.9% vs. 56.8%)および海馬IL-1β濃度(8.8 pg/mg vs. 37.5 pg/mg)とTNF-α濃度(14.8 pg/mg vs. 80.9 pg/mg)の増加が生じた。LiCL投与は敗血症による新奇物体への嗜好性低下および炎症性サイトカイン濃度増加を有意に抑制した (CLP+LiCL群、新奇物体への嗜好性: 70.7%、IL-1β濃度: 9.5 pg/mg、TNF-α濃度: 18.5 pg/mg)。全群を合わせて、新奇物体への嗜好性と海馬サイトカイン濃度の間には有意な負の相関があった (海馬IL-1β濃度: 相関係数 0.42 海馬TNF-α濃度: 相関係数 0.47)。研究期間中、LiCL投与によると考えられる異常行動は生じなかった。【結論】塩化リチウムは敗血症後認知機能障害および関連する脳内神経炎症を予防する可能性が示唆された。