[O66-7] 待機的手術症例の術後吸気筋力低下に対する吸気筋トレーニング
【背景】心臓外科術後(術後)の労作時換気亢進は運動制限因子の一つとされている。術後最大吸気筋力(MIP)低下例に対し換気補助が労作時呼吸困難感を軽減した報告から、術後MIP低下は換気亢進の要因であると推測される。また、我々の予備研究でも高齢開胸手術症例で術後MIP低下率と運動時換気亢進に負の相関を認めた。一方、吸気筋力トレーニング(IMT)は開胸術後の呼吸機能を改善することが報告されているが、IMTよる運動時換気亢進の改善効果は不明である。【目的】そこで、研究仮説をIMTが開胸手術後の吸気筋力と運動時換気亢進の改善に寄与するとし、術後MIP低下率および換気亢進におけるIMTの効果を検討することを目的とした。【方法】IMT導入前を歴史的対象群とした非ランダム化比較試験とした。取込み基準は20歳以上の待機的開胸手術例とし、除外基準は術前IMT非導入例、小開胸手術例、認知機能低下例、歩行に支障を来す合併症保有症例、術後1週間以内の転院、術後評価までの日数が3週間以上とした。IMTは外来で導入し負荷強度は20%MIPとした。実施時間10分、1日6セットと指導した。主要アウトカムをMIP低下率(%ΔMIP)、退院前心肺運動負荷試験で算出したVE/VCO2 slopeとした。対象者背景として、対象特性(年齢、性別、BMI、併存疾患、血液検査値、LVEF)、手術情報(術式、手術時間、挿管時間)、呼吸機能(肺活量:VC、一秒率、MIP)、身体機能(握力、等尺性膝伸展筋力、歩行速度)を調査した。IMT実施の有無による%ΔMIPとVE/VCO2 slopeの比較には単変量解析としてMann-WhitneyのU検定、多変量解析として共分散分析を用いて比較検討した。【結果】解析対象157例のうち、IMT導入群は74例であった。背景因子の比較では、喫煙率、手術時間、術後VCに有意差を認めた。%ΔMIPは単変量解析においては有意差を認めなかったが、多変量解析ではIMT導入群で有意な改善を認めた[-22.8(-28.3, -17.4) v.s. -14.7(-20.4, -8.9 95%CI) p=0.047]。しかしながら、VE/VCO2 slopeは単変量解析、多変量解析ともに有意差を認めなかった。【結論】IMT導入のみでは運動時換気亢進の改善には至らなかった。IMT実施量を統制できていなかったため、実施量が関連する可能性が考えられた。今後負荷量、実施量を統制した上で運動時換気亢進が改善しうるか検討する必要がある。