第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

呼吸 症例

[O7] 一般演題・口演7
呼吸 症例01

2019年3月1日(金) 09:00 〜 10:00 第7会場 (国立京都国際会館1F Room E)

座長:森山 潔(杏林大学病院麻酔科)

[O7-1] コカイン吸入によりびまん性肺胞出血を呈した外国人旅行者に対して人工呼吸器管理にて救命しえた一例

服部 賢治, 石川 陽平, 磯川 修太郎, 大谷 典生, 石松 伸一 (聖路加国際病院 救急部・救急救命センター)

【背景】コカインは諸外国において、蔓延している乱用薬物である。コカイン使用による呼吸器への影響であるびまん性肺胞出血は海外では報告が多数あるが、日本国内の症例報告は稀である。今回我々は、外国人旅行者のコカイン吸入によりびまん性肺胞出血を呈した症例に対し、挿管・人工呼吸器管理による支持療法で救命し得た症例を経験した。【臨床経過】25歳男性。カナダ国籍の旅行者。カナダでコカイン使用歴あり。来院1ヶ月前にも喀血でカナダの病院受診し、検査を受けるも原因不明であった。来院数日前より呼吸苦及び咳嗽を認めていたが観光目的で来日。来院当日呼吸苦が増悪し、喀血を伴ったため救急要請し、当院搬送となった。救急隊到着時、SpO2 66%(室内気)であったため救命対応となったが、来院時vital signsとしては、意識清明、体温38.5℃、血圧 110/40mmHg、脈拍 126回/min、呼吸数 18回/min、SpO2 87% (reservoir mask 10L)であった。身体所見では両側肺野にcoarse cackle聴取し、胸部レントゲン・CTにて両側肺野びまん性の粒状影を認め、 びまん性肺胞出血が疑われた。P/F ratio 80の重症呼吸不全に対して挿管・人工呼吸器管理とした。入院後にBALを行い、BALF細胞診にてびまん性肺胞出血の診断となった。原因精査目的に血液検査にて各種自己免疫抗体・感染症を提出の上、ステロイドパルス療法・IVIG療法・PIPC/TAZ及びAZMによる抗菌薬加療を施行した。緩徐に酸素化も改善し、第4病日に抜管した。フォローCTでも両側肺野びまん性の粒状影は改善傾向を認めた。第14病日には酸素需要なくなり、独歩退院となった。退院後外来フォローの胸部単純写真では肺野粒状影は改善しており、合併症なく帰国となった。入院時に提出した自己免疫抗体・感染症抗体は陰性であり、心電図・心エコーでも心疾患を示唆する所見は認めなかった。コカイン経鼻吸入使用の事実があることおよび、臨床経過からコカインによるびまん性肺胞出血を最終診断とした。【結論】コカインはびまん性肺胞出血鑑別の一つとして挙げられる疾患である。海外での報告は多数見られるものの、薬物規制の厳しい日本では忘れられがちである。今後、外国人旅行者のさらなる増加が予想されるため、海外では一般的とされる乱用薬物についても集中治療医が熟知する必要がある。