[O72-6] ICU-AWを呈し,栄養投与量の調整に伴い下肢筋力改善を認めた体外式補助人工心臓装着患者の一例
【背景】体外式左室補助人工心臓(left ventricular assist device; LVAD)は重度の心原性ショックに適応となるが,多臓器不全の合併や長期間の安静により,全身性の筋力低下を示すICU-AW(ICU-acquired weakness)を高率に呈しうる。栄養投与はICU-AWの重要な治療要素だが,適切な栄養投与方法は明らかではない。体外式LVAD装着後にICU-AWを呈し,栄養投与量を調整した結果, 筋力改善を認めた症例を経験したので報告する。【症例】症例は52歳男性。心不全増悪で入院中に心室頻拍によるelectrical stormとなり,気管挿管,IABP・PCPS管理となり,3日後に当院に転院した。身長164cm,体重71.9kgであった。心臓超音波検査で左室駆出率13%であった。重度の心原性ショックでPCPS離脱が困難であり,転院後第17病日に体外式LVAD装着術を行った。術後第2病日(POD2)から理学療法を開始したが,発熱と覚醒時のVT出現を認め全身状態が不安定であった。POD24に気管切開施行,POD29に開胸洗浄・大網充填術,POD44にアブレーションを施行した。POD25に神経筋電気刺激を導入し,POD52に作業療法開始となった。経腸による栄養投与量は適宜漸増し,POD14以降は1,700kcal/日(蛋白投与量1.6g/kg,非蛋白熱量24kcal/kg)とした。POD20で握力1.7kgf,下肢筋力は測定不能だった。周術期の感染の長期化に伴い筋力低下は著しく,POD46で全身筋力のMRCが9点のためICU-AWと判断した。POD78に経口摂取を開始した。POD152に栄養投与量を2,000kcal/日(同1.6g/kg,29kcal/kg)まで増量し,POD185は握力12.3kgf,下肢筋力体重比12.1%まで改善したが,体重は49.4kgで改善を認めなかった。栄養投与量は目標とされる2,000kcal/日を達していたが,更に2,300kcal/日(同1.7g/kg,34kcal/kg)へ増量した。体重は増加に転じたが下肢筋力の改善が乏しいため,POD251に立位下肢運動追加と2,600kcal/日(同1.8-1.9g/kg,38kcal/kg)へ増量した。POD320に握力は20.4kgf,下肢筋力体重比21.4%,体重56.9kgまで改善した。【考察】ICU患者では25-30kcal/kgの非蛋白熱量が必要であり,1.2-2.0g/kgの蛋白喪失を考慮するとされが,個々の症例・時期により病態が大きく異なるために栄養投与量の設定が困難となる。推奨される栄養投与量を設定しているにもかかわらずICU-AWの改善が不良な際は,栄養投与量の再設定を行い,その効果を判定していくことが,実際のICU-AW診療に有用である可能性がある。