[O76-2] 重症外傷患者におけるFDPで診断した来院時線溶亢進状態の評価
【背景】重症外傷患者の凝固障害は予後不良であることは知られている。FDPは線溶亢進をスクリーニングできる鋭敏かつ簡便な検査である。本研究の目的はFDPで診断した来院時線溶亢進と院内死亡率との関係を明らかにすることである。【方法】2012年1月から2015年12月の期間における単施設の後方視的観察研究である。ISS16以上の重症外傷患者1178人のうち、小児及び来院時心肺停止患者を除外し、現場より直接搬送され、来院時にFDPが測定された760人を対象とした。FDPと重症度(ISS、RTS)及び他の凝固因子(PT%、Dダイマー、フィブリノゲン)との相関を検討し、大量輸血と院内死亡率についてROC曲線分析でカットオフ値(80mcg/ml)を定め、2群間比較を行った。またFDPと院内死亡率についてCoxハザード分析で評価した。【結果】年齢中央値は60[IQR:42-71]歳で、ISS中央値は25[18-34]であった。受傷機転が鈍的外傷であったのは97.1%、病院前に医療介入を施行されたのは68.0%で、院内死亡率は10.3%であった。FDPは重症度及び他の凝固因子と有意に相関(P値<0.01)していた。FDP≧80mcg/mlで定義した線溶亢進(以下HF)群は277人、非線溶亢進(以下Non-HF)群は483人であり、HF群の方が高齢(平均値61.3, 53.0歳)で、重症度も高かった(ISS平均値35, 24)。また線溶抑制作用があるトラネキサム酸の使用頻度もHF群で有意に高率(57.0%, 43.9%)であった。多変量のリスク調整を行ったCoxハザード分析の結果、HF群は院内死亡率と有意に関連していた(ハザード比:3.27, 95%CI:1.64-6.51, P<0.01)。【結論】FDP値が80mcg/ml以上の線溶亢進状態は、重症外傷における予後規定因子である。この値は外傷性凝固障害に対する治療基準の一つとなり得る。