[O90-3] 妊娠を契機に肺血栓塞栓症を発症した若年女性の一例、本当の原因は?
【背景】若年女性における静脈血栓塞栓症の原因として妊娠、経口避妊薬、自己免疫疾患などが挙がる。AT(Antithrombin)3活性の推移から先天性AT3欠損症を疑い妊娠に隠れた真の原因診断に至った。稀であるが、静脈血栓塞栓症の原因として潜在し若年女性においては今後の妊娠・抗凝固薬の選択、血縁者の遺伝子診断などの示唆に富む症例を経験した。【臨床経過】症例は生来健康な32歳女性。妊娠2回、出産2回。喫煙歴なし、経口避妊薬の内服歴なし。入院6週前に第3子の妊娠が判明、入院3週前に稽留流産(妊娠9週)と軽度の低酸素血症が判明した。入院1週間前から右下肢の腫脹、疼痛が出現し改善ないので救急受診し造影CTを施行した。肺血栓塞栓症(右主肺動脈が亜閉塞)をみとめたのでICUに緊急入院した。両側大腿から連続して腎静脈直下まで大量の深部静脈血栓が進展していたので下大静脈フィルターは留置できず、ショックの合併もないので抗凝固薬の静脈投与のみで加療を開始した。新規の血栓塞栓イベントもなく最終的にワルファリン内服で第45病日に退院した。抗リン脂質抗体などの他の血栓性素因はみとめず、図のようにD-dimerが低下傾向にも関わらずAT3補充でAT3活性は一過性の上昇のみだったのでAT3の過剰消費ではなく産生・機能異常が疑われた。実父に深部静脈血栓症に対する若年からの抗凝固薬の内服歴が判明した。先天性AT3欠損症を疑い、遺伝子検査でAT遺伝子の変異を確認した。【結論】本症例は先天性AT3欠損症が基礎にあり妊娠契機に顕在化し肺血栓塞栓症を発症した若年女性の一例であった。