[O94-5] 肝臓のnecropsyで結核が判明した敗血症性ショックの1例
【背景】結核は時に診断が困難であり、未治療のまま急激に全身状態が悪化し死の転帰をとり、剖検で診断される症例も少なからず存在する。今回、原因不明の多臓器不全を来たし、結核を含めた原因検索を行ったが診断には至らず、肝臓のnecropsyで結核と判明した1例を経験したので報告する。【臨床経過】症例は75歳女性。来院1週間前より全身倦怠感、下痢が続き、歩行困難と意識レベルの低下を認めたために救急搬送となった。来院時はショック状態であり、呼吸不全、急性腎傷害、急性肝不全、DICを伴っており、来院13時間後、人工呼吸管理ならびに血液浄化療法を含めた集学的治療を開始した。明らかな感染巣は同定できないものの重症感染症と判断し抗菌薬治療(MEPM+VCM)を開始するとともに、ARDSに対しmPSL125mg/日の投与も行った。また大動脈周囲のリンパ節腫脹を認めたため、感染症以外の病態の関与も考慮し血中可溶性IL-2レセプターを測定したところ21,900U/mlと異常高値であった。そのため血液悪性疾患の可能性を念頭に骨髄生検・ランダム皮膚生検を施行したが、いずれも悪性所見は認めず、類上皮細胞肉芽腫の所見であった。浮上した結核の可能性に対して痰の抗酸菌塗抹検査を3日連続で実施したがいずれも陰性であった。来院時よりCTで肝臓の一部に低吸収域を認めており、病態の解明のため肝生検も検討されたが著明な凝固異常をきたしていたために施行を躊躇した。全身状態は一時改善し、第16病日に人工呼吸管理および血液浄化療法を離脱することができたが、第18病日より再度全身状態は悪化した。第20病日には汎血球減少が出現し頻回の輸血を要する状態となり、第25病日に骨髄生検を再検したところ著しい血球貪食像を認めた。血球貪食症候群を来している原因が不明なまま全身状態は悪化し第27病日に死亡した。その後肝臓のnecropsyで結核菌が検出され、結核による敗血症であったと判明した。【まとめ】原因が定かではない多臓器不全の症例に対して、敗血症性ショックを想定し通常の抗菌薬治療を行っていたものの反応が乏しく、多臓器不全および続発した血球貪食症候群によって救命することが出来なかった。痰の抗酸菌検査は陰性であったものの皮膚生検で類上皮細胞肉芽腫を検出していたために、結核の関与を積極的に疑い、出血性合併症のリスクを冒してでも、より感度の高い肝生検を施行すべきであったと考える。