第46回日本集中治療医学会学術集会

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一般演題(口演)

感染・敗血症 症例

[O96] 一般演題・口演96
感染・敗血症 症例06

Sat. Mar 2, 2019 2:40 PM - 3:20 PM 第12会場 (国立京都国際会館5F Room 510)

座長:甲斐 慎一(京都大学医学部附属病院 麻酔科)

[O96-2] 【優秀演題(口演)】破傷風に合併した冠攣縮性狭心症の1例

山中 陽光1, 高間 辰雄1, 梅田 幸希1, 松窪 将平1, 下野 謙慎1, 大西 広一1, 鹿野 恒1, 上野 剛2, 濱崎 順一郎2, 吉原 秀明1 (1.鹿児島市立病院 救命救急センター, 2.鹿児島市立病院 集中治療部)

【背景】
破傷風はClostridium tetaniが産生するtetanospasminによって神経刺激伝達障害を起こす感染症である。発症数は年間100例程度であり比較的稀な疾患であるが致死率は20-50%と高く迅速な診断と治療開始が必要とされる。破傷風ではtetanospasminにより自律神経障害を来し、様々な心血管系合併症を来すことが知られている。今回、我々は破傷風に合併した冠攣縮性狭心症を経験したので報告する。
【臨床経過】
74歳男性。2018年X月Y-4日に七面鳥に左前腕を引っ掻かれ受傷し、受傷直後の創部洗浄は行わなかった。Y日に開口障害が出現したため近医を受診し、破傷風を疑われ同日、当院救命救急センターへ紹介され受診した。創部の切開、洗浄を行い、直ちに破傷風ヒト免疫グロブリン3000単位を投与し、ベンジルペニシリンカリウムを1000万単位投与した。Y+1日に開口障害が増悪し、血圧の著明な上昇と変動の出現を認め、onset timeが48時間以内であることから重症破傷風と判断した。重症症例の致死率は60.0%との報告もあることから鎮静、鎮痛、筋弛緩下に気管挿管し、人工呼吸器管理を含めた集学的管理を開始した。同日、一過性の心室頻拍を認め自然軽快したものの、直後から12誘導心電図にてST上昇を認め緊急心カテーテル検査を施行し冠攣縮性狭心症の診断となり、ニコランジルの静脈内持続投与を開始した。以降はニコランジルの持続投与と抗菌薬治療と十分な鎮痛・鎮静管理を行い著明な血圧上昇や心電図変化を認めることなく経過し、破傷風の症状も改善しY+49日に自宅退院となった。
【結論】
長田らの報告では破傷風による交感神経系の異常興奮と、たこつぼ心筋障害発症の関連について言及されている。冠攣縮性狭心症ガイドラインにおいて自律神経機能異常によるノルアドレナリン等の血管収縮性神経伝達物質や交感神経系を介したセロトニン遊離が病因の一つとされており、一般の冠攣縮性狭心症例でも交感神経系活動優位となるとの報告が多いと述べられている。このことから冠攣縮性狭心症もたこつぼ心筋障害も自律神経機能異常による刺激を誘引に発症することが予想され、本症例は破傷風による交感神経系の異常興奮によりもたらされた可能性がある。本邦では破傷風に冠攣縮性狭心症を合併した症例の報告はなく、極めて稀ではあるが病態的に起こり得ると考えられ、破傷風治療時には、たこつぼ心筋障害のみならず冠攣縮性狭心症も念頭におく必要がある。