[P1-1] 腹腔鏡下胆嚢摘出術患者の麻酔導入時にKounis症候群が疑われた1症例
【背景】アレルギー反応に起因した急性冠症候群はKounis症候群と定義されているが、本邦では広く認知されておらず、病態に関してもいまだ不明な点が多い疾患である。【臨床経過】78歳男性。胆嚢結石症に対して腹腔鏡下胆嚢摘出術が予定された。既往歴で高血圧、甲状腺機能低下症があった。2007年に完全房室ブロックに対して埋め込み型ペースメーカーが留置されており、同年に前立腺癌全摘出術が施行されていた。6ヶ月前に狭心症疑いにて行った冠動脈造影では有意狭窄を認めず、ビソプロロールフマル酸塩2.5mgを内服中であった。麻酔法は硬膜外麻酔併用全身麻酔が予定された。胸部硬膜外麻酔(Th8/9)を施行後テストドーズとして1%リドカイン塩酸塩2mlが投与された。フェンタニル100μg、プロポフォール130mg、ロクロニウム50mg静注にて全身麻酔導入、気管挿管後、血圧は71/39mmHgと低下し、その後血圧測定、蝕知不能となった。心電図上STの上昇を認め、呼気終末二酸化炭素分圧が急速に低下した。心室ペーシングが99%以上であり、頻脈や気道症状、皮膚症状は認めなかったがアナフィラキシーショックを疑い、ノルアドレナリン0.1mgを2回静注、持続投与(0.02μg/kg/min)を開始し、アドレナリン0.5mg静注にて血圧が回復するとSTは平定化し呼気終末二酸化炭素分圧も検出可能となった。経胸壁心エコーでは肺塞栓症や虚血性変化を疑わせる明らかな心機能障害は認められなかったが、手術は中止とした。手術室にてヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム100mg、d-クロルフェニラミンマレイン酸塩5mg、シメチジン20mgを点滴静注した。全身麻酔覚醒後明らかな神経学的障害は認めず、集中治療室入室となった。血液検査では白血球数11880/μl、CK-MB 48 U/Lと軽度上昇を認めたが、好酸球は0.3%と低値であった。集中治療室では心電図変化を含む心機能障害は認めず、ノルアドレナリンの持続投与も終了となり、神経学的後遺症を残さず第2病日軽快退室となった。本症例は術前に冠動脈の有意狭窄はなく、アレルギー反応に伴う冠攣縮性の急性冠症候群であり、Kounis症候群のタイプ1が疑われた。【結論】本症例で疑われたKounis症候群は様々な臨床像で発症しうる疾患であり、かつ重篤化する可能性があるため注意が必要である。